姉の厄介さは叔母譲りでしたが、嘘のようにあっさりと私の人生からいなくなりました

珠宮さくら

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【ランベール視点】


私の名前は、ランベール・ジェデオン。公爵家の跡継ぎとなるべくして生まれた。それに不満はない。

容姿には両親のおかげで恵まれている。そのせいで、幼い頃から色んな令嬢が婚約者になろうとして来た。

正直鬱陶しいと思うことばかりだった。ちょっとでも、女性に優しくすると勘違いされ、挙げ句は追いかけ回されたりするのだ。

そんな日々に疲れ果てていた時に1人の可愛らしい天使に出会った。

容姿や優しさで、コロッと騙されるような令嬢ではなかった。


「えっと、どなたでしょう?」
「っ、!?」


初対面で見惚れすぎて間抜けな顔をしたが、二度目の時に挨拶して、三度目の時にはすっかり忘れられていた時には、泣いた。

そこまで、彼女の記憶には残らなかったのだ。それが、ショックであり、嬉しかった。


「絶対に名前を覚えてもらう」
「まぁ、坊っちゃんのことを知らない語りがいるのですか?」
「いるんだ。天使みたいに可愛いんだ」
「あらあら、それは旦那様と奥様にもお伝えしなくては」


乳母は喜び、両親も、息子の話を聞いて、どんな令嬢なのかと思ったようだが、ランベールの言葉に最初にムッとしたのは、母親だった。


「あなたのことをそんなにすぐ忘れるなんて、失礼な令嬢がいたものね」
「そんなことないだろ。自己紹介だけで、他に何か話したのか?」
「いえ、何を話していいか、わからなくて」
「……あなた、自己紹介だけして、その場を後にしたんじゃないわよね?」
「……」
「そんなので、どうするのよ!」
「っ、」


母は、息子の態度に問題があるとわかったようだ。

そこから、母はお茶会で見かけたイヴォンヌに話しかけ、戻って来た時には……。


「あなた! イヴォンヌちゃんを我が家にお迎えしたいわ!」
「おいおい、落ち着け」


そんなことを言っていた父親も……。


「ランベール! お前、もっと頑張れ!」
「え? いきなり、なんですか?」
「イヴォンヌ嬢は、婚約の話が、ほうぼうから来ているようだぞ」
「っ!?」


そこから、アピールしまくって、ようやく婚約できたのだ。……ここまで長かった。

そう、彼女に出会ったのはだいぶ前になる。あの頃から、可愛らしさに何の変わりもない。

最近は、可愛らしさから美しいと思うことも増え始めていて、婚約できて良かったと思っている。

でも、婚約してからも悩みは尽きないもののようだ。むしろ、前より増えた気がする。


「イヴォンヌ。おはよう」
「……おはよう、ございます」
「どうした?」
「いえ、ちょっと、夜更かししてしまって」
「……そうか」
「あ、昨日、新しい洋服が届きました。……とても素敵なものをありがとうございます」
「そうか。届いたか。あの色合いは、イヴォンヌにとても似合うと思っていたんだ」
「……」


ジェデオン公爵家の子息というのもあり、贔屓にしている洋服店は跡継ぎの婚約者だとして、イヴォンヌへの贈り物には気を遣ってくれていた。

最初は、両親もオーナーを呼んでイヴォンヌは、大事なジェデオン公爵家の後継ぎの婚約者だからと念押ししたことで、凄いことになっている。

デザイナーたちも張り切っていた。何せ、イヴォンヌが着たものが流行を生み出し始めているのだ。

オーナーだけでなく、デザイナーたちも、イヴォンヌに会ったことない時は、ジェデオン公爵家は面倒くさいなと思っていた。いくらお得意様でも、そこまでは……。

そんな態度が見え隠れしていたが、イヴォンヌを連れて来店した時に……。


「ミューズだ」
「え?」


その洋服店の一番売れっ子のデザイナーがイヴォンヌの素晴らしさに目を輝かせた。そして、がっちり手を掴まえるのを引き離すのにランベールは、必死になって大変だった。


「触るな!」
「あぁ、失礼。こんな素敵な令嬢のお召し物を考えられる日が来ようとは」
「……おい、大丈夫なのか?」


ランベールは、オーナーに聞くと腕は一流で、こうなると素晴らしい作品を作ると言われて胡散臭そうにしていた。


が、腕は本当に一流だった。今や流行りを生み出す令嬢として、この国でイヴォンヌのことを何気にチェックしている者は多いが、本人は全く気づいていない。

その辺のイヴォンヌらしさも相まって、この洋服店は客が増えていた。そのため、ランベールが頭を悩ます頃合いに色んなアイディアを揃えて、来店を待ちわびていたりするが、そのことをイヴォンヌどころか。ランベールですら、そこまでとなっていることを知らない。

贈ったものの話を色々と話していたが、ぼんやりとしているイヴォンヌに疲れている気がしてならなかった。

彼女の婚約者のランベールは、贈り物に対してあまり反応のないのにムッとすることはなかった。

彼は、イヴォンヌのことを溺愛していた。婚約する前から、彼女と出会った瞬間に一目惚れして、婚約してからも全く気持ちに揺らぎはない。

それこそ、婚約したのは最近で、イヴォンヌの家まで迎えに行きたがっているが、遠慮されてしまっていて、学園で来るのをランベールは待っていた。

何なら馬車から降りて出迎えたいが、色々と指定されていて不思議に思いながらも、イヴォンヌに嫌われたくなくて守っていた。

まだ、婚約したばかりで、色々と恥ずかしいのかもしれない。

だが、最近になって贈り物をした後に元気がないように見えることがわかった。それが、気になっていた。

その辺は、今は家に姉のマドレーヌしかいないせいもあるのか。寂しそうにしていることも増えた。頼ってほしいところだが、ランベールは頼られずにいて困っていた。


「ランベール様!」
「……マドレーヌ嬢。朝から元気だな」


なぜか、イヴォンヌの姉に会うと捕まってしまい、ペラペラと聞いてもいないことを話しかけて来てランベールは困惑するばかりだった。

しかも、なぜかくっついてくるのだ。わけがわからない。妹の婚約者だからなのか。距離感が近すぎて、ランベールはわけがわからなかった。


「あら、イヴォンヌ。まだ、いるの? 先に行けばいいのに」
「……」
「あー、彼女とは授業が一緒なんだ。そろそろ行こう」


マドレーヌの前では名前を呼ばないでほしいとイヴォンヌに頼まれていて、ランベールはそれを守っていた。嫌われたくないから、とやかく聞くこともない。

一緒の授業と聞いて、マドレーヌは妹を睨みつけていた。だが、ランベールがその目を見ていて、ぎょっとしていると何事もなかったような顔をした。

そんなことをしていたから、ランベールはマドレーヌが贈り物をチェックしているとは知りもしなかった。

もっとも、イヴォンヌの中で勘違いが起こっているとは思いもしなかった。

その辺は、あの家の使用人たちも気づいていなかった。

ただ、何をしたらイヴォンヌが喜んでくれるのか。それだけが、ランベールの重要なことになっていた。

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