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しおりを挟むそんなところに例の王太子と婚約したことで、勘違いしているアルムデラが、侯爵令嬢とは思えない大声を遠くから出して駆け出して来るのが見えた。
駆けて来るなんて可愛らしいものではない。凄い形相で駆けて来ていた。
(足早っ!?)
令嬢の全力疾走を見たエステファンアは、そんなことを思ってしまった。
それは、王太子の婚約者になった者がすることではなかったのは確かだ。子供のやることならいいが、学園で見る光景ではない。
これで、留学する気でいたのかと思うと多くの者が、それを見ていてゾッとしていた。まぁ、ゾッとしていても、彼女の力量では叶いようがなかったようだが。人数が定員割れしていたら、どうなっていたことか。
ヴィティカ国の令嬢は、はしたないことを平気でやる。留学生があぁなのならば、みんなそうだろうとそんな風に言われたら、この国の評判はガタ落ちになる。それを知っているはずなのに浮かれているだけなのか。この国でなら、やっても平気だと思っているのか。アルムデラは、そんな周りのことなど気づいていないようで、たどり着いて息を切らしながらも笑顔だった。それは、それで怖かった。
そう思ったのは、エステファンアだけではなかったようで、変な人とばかりにパトリシオがさっとエステファンアを背に隠した。だが、エステファンアは怖いもの見たさというか。気になって、その背から顔をのぞかせていた。
「バウティスタ様~!!」
「っ、」
「ここに居られたんですね~。ずいぶん探しました」
王太子と婚約してから、やたらとアルムデラは王太子を探し回っては一緒にいようとしているようだ。
それこそ、こんな風にしているのも、よく見ている者は多かったが、エステファンアは初めて見て、ギョッとしつつ、初めて見るものを観察していた。
(この方、留学する候補にあがっていたはずなのに。……まぁ、裏で色々荒れていたから、今のやあれを留学先でやっていたと思うとそうならなくてよかったとしか思えないな)
エステファンアでも、はしたないと思うことをしていた。それに信じられない顔をしていたが、エステファンアだけではないというのにアルムデラは全く気づいていないようだ。
「って、パトリシオ様もいらしたのですね」
アルムデラは、エステファンアがいるのに見えていないかのようにするのも、いつものことだ。まぁ、今は新種の生き物のようにパトリシオが守るように背に隠そうとしているから、よく見えなくとも仕方がないが。
そのあからさまな態度にカルメンシータなら、妹のしていたことだからと許せていたようだが、パトリシオはアルムデラがやると我慢ならないものがあるようだ。
大体、王太子の婚約者だ。婚約者が側にいるのに別の子息に馴れ馴れしくしすぎている。
一応は、王太子の婚約者であり侯爵令嬢ということもあり、エステファンアは礼を尽くしているが、それすら無視しているのだ。それに腹が立たないわけがな
「えぇ、ですが、婚約者と別のところに行くところなので、これで失礼します。それでは」
「なっ、待て。話はまだ……」
「終わってますよ。私は、嘘などついていません。それより、婚約者がいらしたのですから、そちらを大事になさってください」
「っ、」
パトリシオから、婚約者と言われてアルムデラは嬉しそうにしていた。そこも、物凄くわかりやすい。
そんなアルムデラに掴まった王太子は、逃げようとしていたが、上手くいかなかったようだ。王太子を文字通り腕を掴まえているわけでもないのに。逃さないとばかりにしているのだから、凄い。
何というか。変なスキルアップを遂げたようだ。王太子と婚約したのだから、別のことをした方がいいように思えるが、彼女は王太子を追いかけ回すことを頑張っていた。
(一度掴まると逃さないところがあるみたいね。どうして、彼女と婚約したんだろう。まぁ、婚約したのは、殿下だし。何とかするわよね)
そんな令嬢を王太子が婚約者にしたのだ。そのため、誰も助ける者はいなかった。
そして、パトリシオは色々とあって王太子の側近をやめた。彼だけではない。他の側近たちも、目に余るとして、側近をやめてしまったようだ。
最近では、婚約者に逃げ惑ってばかりいて執務も滞っているらしい。それを側近たちにやらせようとしていたようで、そんなことしていられるかと一斉にやめることにしたようだ。
その上、婚約者ができたというのに王太子は、とんでもないのを婚約者にしたと思っているようで、別の令嬢に癒してもらっているようだ。それもおかしな話だが。
「前々から、一緒にいてもついていけないところがあったが、婚約したのにその婚約者をほっといて、他の令嬢と一緒にいるんだ。それも、取っ替え引っ替えしていた。それに苦言をていしたら、怒鳴り返された。それも……」
「? どうかされましたか?」
「いや、あんなことを言われるとは思っていなかった。あんな方だと思っていたら、側近になんてなっていなかった」
「……」
珍しく怒りをあらわにすることがあったようだが、決してエステファンアに話すことはなかった。
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