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しおりを挟むパトリシオを凌ぐハイスペックな王太子だ。唯一、パトリシオに勝てる人物は、バウティスタしかいないと言われていた。
彼は、そんな風な挫折というか。上手くいかなかったことを味わったことなどない人生を送って来ていたようだ。
そのせいか。そうなった時、つまり思っていた通りにいかず、失敗したら次に何をしたらいいのかがわからないようにも見える。
(これを羨ましいと見るか。何事も経験と見るか。……なんか、こういうところにカルメンシータ様が選ばなかった理由がある気がするけど。そもそも、そこが伝わってない気がしなくもないな)
エステファンアは、そんなことを思って、荒れ出した王太子を見ていた。
そして、ちらっと見るとパトリシオは腑抜けたままだ。少しシスコン気味だと思っていたが、かなりのシスコンだったようだ。
エステファンアとて、カルメンシータをそれなりに心配しているのが、あの令嬢だ。負けず嫌いもあるから、そう簡単に負けるようなことにはならないはずだ。
(それこそ、カルメンシータ様を凌ぐ令嬢が、その辺にゴロゴロいたら、世の中大変になりそう)
エステファンアは日常生活は、普通にしている。全ては、お菓子を食べるためだが、今はちょっとずつ変化している。美味しくお菓子を食べるためにパトリシオに元気になってもらわないと調子がでないのだ。
まぁ、そんなことを言いつつ、お菓子を食べる量にさほどの変化はないが。気分の問題だ。
(どうしたら、元のようになるのやら)
しばらくして、動きがあったのは、バウティスタの方が先だった。王太子が、ついに自棄を起こしたようだ。
それは何の前触れもなく起こっていた。
(何で、あの令嬢と……? それこそ、何で、よりにもよって、あの令嬢を選んだの?? 全くわからない。……まぁ、理解できたことはないようなものだけど)
王太子が、アルムデラと婚約したのだ。例のカルメンシータに勝てないことで悔しい思いをしていた令嬢だ。
その婚約のことを聞いて、エステファンアは眉を顰めずにはいられなかった。自棄としか思えない行動にパトリシオは、ようやく王太子を見た。
そして、言ったことといえば……。
「殿下の好みが、わからない」
「……」
ポツリと呟いたのが聞こえたが、エステファンアは何とも言えない顔をすることしかできなかった。パトリシオは、本気でそう思っているようだ。
(まぁ、よくわかるけど)
他の側近たちも、パトリシオと同じように思っているようだ。大きく頷きながら、やっと正気になったかとパトリシオの背中を叩いていた。
「ん? 正気って、何のことだ?」
「お前が腑抜けていた時の話だ」
「何のことだ?」
パトリシオは、どうやら記憶になかったようだ。まぁ、それほどまでに心ここにあらずだったのだろう。それを周りに言われて土下座しそうな勢いで、エステファンアに謝罪しに来たが、元に戻ったのなら、それでいいと言われていた。それにパトリシオは、どれほど感激して、己の目に狂いわなかったと思ったのかも、エステファンアは知る由もなかった。
王太子の側近たちだけではない。
その頃には、執務室の中にとどめていたことが、知られるまでになった。全てはバウティスタが、婚約したことで少しずつ王太子は顔がいいだけに見えてしまったようだ。
「殿下は、あぁ言う令嬢が好みなのね」
「なんか、がっかりだわ」
「そうね。これなら、エステファンア様の方が応援できるわ」
「……」
何故か、急にそんな風に至るところで言われるようになった。ちんちくりんと言われなくなってもいた。それもそれで、どうなのかと思えることだが、まぁ一番言われたくないことを言われなくなったのは、精神的には良かった。
このタイミングより、少し前からそう思う者はちらほらいたが、ここに来て一気に増えたのだ。
(あれに比べて、マシと言われるのも、微妙だけど)
エステファンアは、そんなことを思っていた。
王太子に選ばれたとなって、ふんぞり返るようになったアルムデラを見て、冷めた目を向ける者は多かった。
一番選んではならない令嬢を王太子は選んだようだ。それが、自棄以外に理由があるとは思いもしなかった。
とりあえず、エステファンアは……。
(まぁ、なにはともあれ、パトリシオ様がショック療法で元に戻ったみたいでよかったわ。……私は、何にもできなかったけど)
エステファンアは、しょぼくれていた。それも、お菓子に関わるからだけではなくなっていた。
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