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エウリュディケは、トリニアの学園に通うようになったが、テネリアで散々な目にあったせいで、幸せなことが起こるたび、夢ではないかと思うエウリュディケに周りも重症だと思ったようだ。


「お可哀想に」
「でも、相思相愛で溺愛されていた方に信用されず、悪女呼ばわりされてしまえば、無理もないこもしれませんわ」
「エウリュディケ様は、王太子妃になるために物凄い努力をしておられたらしいのに酷いですわよね」


これが、テネリアだったら心配するふりをする者ばかりだったが、トリニアではそんなふりをする者は殆どいなかった。完全にいないなんてことはなかったが、エウリュディケに嫌味をわざわざ言って来る者はいなかった。


「エウリュディケ様。バシレイオス様とお似合いですわ」
「本当に羨ましいくらい」


エウリュディケは、元婚約者の時に散々、そう言われていたこともあり、本心でそう言ってくれている令嬢たちの言葉を素直に受け取ることが、最初できなかった。

それを理解したのが、バシレイオスだった。彼女への想いを言葉にし続けたのだ。

それを周りが見ていて、次第に落ち着いていくエウリュディケにホッとしていた。


「お可哀想で見ていられなかったけれど、やっと落ち着かれたようね」
「本当ね。あんなに想い合っているのに」
「でも、素敵よね」
「やっと幸せを掴んだのにそれを信じられなほどのショックを受けた婚約者に寄り添い続けてくれる方なんて、そうはいないもの」
「王子殿下に振り回されているだけの方だと思っていたけど、エウリュディケ様のことを本当に大切にされているのね」


トリニアの令嬢たちは、みんなエウリュディケを羨むようになっていた。

それすら、エウリュディケは色々と誤解していたが、テネリアの考え方が染み付いていたことを理解するまで、かなりの時間が必要だった。

そのたび、バシレイオスはエウリュディケの側にいた。元婚約者のように寄り添っているようで、お互いが思っていることを話すことにしたのだ。

言葉にしてみないとわからないものがあったようだ。でも、何でも思うままに話すことはなかった。エウリュディケが知らなくてもいいことは、バシレイオスは徹底して耳に入れないようにしていたのだ。

そうしながら、エウリュディケと向き合い続けたのだ。これから先を一緒に過ごして幸せになるために。


「バシレイオス。私、あなたの隣に立ち続けるためにもっと頑張るわ」
「今でも十分だよ」
「駄目よ。バシレイオスを私が幸せにするんだから」
「エウリュディケ。やっと、夢じゃないって、わかってくれたってこと?」
「ん~、夢でも、バシレイオスには幸せになってほしいから、そこに拘らないことにしたわ」
「……」


バシレイオスは、期待した方向と違うところに着地したエウリュディケに苦笑してしまった。どんな着地をしても、エウリュディケは自分が幸せになるためとは言わないところが彼女らしいとバシレイオスは思ってしまった。


「……そっちに落ち着いたんだね。そうか。うん、なら、僕も頑張らないと。君をとびきり幸せにしないと気が済まない」
「ふふっ、お互い、いつ満足するかしらね」
「ん?」
「だって、この世界に聖女を召喚させないことも含まれるのよ? そのためにはバシレイオスだけでなく、みんなを幸せに巻き込まなきゃいけないってことになるじゃない。そうなるとやっぱり、満足しきれなかったからって、来世も継続しそうじゃない?」
「あぁ、そうか。それ、ありだね」
「でしょ?」


2人にしかわからないことだったが、それだけで十分だった。お互いが思う通りの幸せにならない限り、それが永遠に続こうとも、エウリュディケたちはお互いが幸せになるまで続けることに何のためらいを持たなかったのだ。

トリニアでは、2人のことを知らない者がいないまでになり、幸せな物語を描いたら2人のようになる理想を描いたかのような一生を送ることになった。

いつ見かけても、仲睦まじくしていて笑顔溢れる毎日を送っていたのに生まれ変わっても、また一緒にいたいと言い続けていた。

今回の人生だけでは相手のことも、周りのことも幸せにするには足りないと言うような2人だった。

自分たちだけでなく、周りも幸せでなければ不十分だと言う2人の周りには笑顔の人たちが溢れていたが、それが浸透していって、この世界が危機的状況になる未来が遠のき続けることに貢献していたことを知る者は殆どいなかった。


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