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しおりを挟む色々なことがありすぎて、エウリュディケがいっぱいいっぱいとなっていたところに奇妙なことが起こり始めた。
もしかするとそれが起こる前触れのようにエウリュディケに余裕がなくなっていたのかも知れない。それか、警告もあったのかも知れない。ここに長居する必要などないのだと伝えたかったのかも知れない。
でも、エウリュディケはそんな風に受け取らなかった。ずっと押し込めて、溜め込んでいたものを癒すというか。落ち着かせる者がいなかったことも関係していたようだ。その癒しをエウリュディケは無意識に必要としていたのだが、そのことも理解が追いついていなかった。
そんなところに不思議というべきか。奇妙というべきか。あの女が現れたのだ。
聖女が召喚されたとテネリアで騒ぎになったことはなかった。そんなことになれば、いくらテネリアであろうとも大騒ぎになっていたはずだが、その話題で騒ぎになることはなかった。少なくとも、エウリュディケは耳にすることはなかった。
そもそも、テネリアで聖女を召喚なんてことをするはずはないのだ。存在自体を馬鹿にしているような人たちが大半を占めていたのだ。そんな馬鹿なことを誰がしたんだと笑い飛ばす者ばかりで、本物のはずがないと思うはずなのにだ。それか、証明してみせろと言うはずだ。そうでなければ、信じる者などいないはずだが、あり得ないような反応をしたのだ。
エウリュディケは、笑い飛ばすことはしなくとも、この国で召喚なんてことをわざわざしようとする者はいないと思っていた。
いや、したところで信じてもいないのに成功するはずがないと思っていた。信じてすらいないところに召喚されて現れる聖女など、それこそ本物なのかと疑いたくなるのが普通ではなかろうか。
だが、おかしなことがある日、突然起こったのだ。聖女となった女性は当たり前のように学園にいたのだ。当たり前のようにそこに前からいたかのように存在していた。
(誰かしら?)
エウリュディケは、初めて見る生徒にそんなことを思っていた。化粧が派手めで、髪型も学園でするような髪型ではない貴族令嬢なら常識を知らなさすぎてお近づきにはなりたくない女性がいた。
そんな格好をするなら、家に帰ってからすればいい。それか、休日に思いっきりすればいい。ここでそんなことをやるなんて、いい度胸というか。無知をさらけ出していて、面白おかしく話題にされるのがオチになるような女性だ。
確かに昨日までは、この学園にはいなかったはずだ。エウリュディケの記憶力は誰もが認めるほど優秀だったが、どんなに思い出そうとしてもエウリュディケの記憶にその生徒の顔と名前が一致することはなかった。そもそも、そんな格好でいたなら噂話を耳にしていたはずだが、そんな話題を聞いてはいなかった。
そういった話を好んではいないが、エウリュディケの周りにいる令嬢たちはその手の話が好きなのだ。それも、王女がそういうことで盛り上がるのが好きな人だからだ。いつの間にやら、その手の話題を耳にすることが当たり前になっていた。だから話題にエウリュディケが乗り遅れることがなかった。
なのにエウリュディケは、彼女のことを知らなかった。だから、エウリュディケははじめ、見かけない女性のことを転校生だと思っていた。
「ラトニケ。おはよう」
「フォルミオン様! おはようございます!」
(え?)
王太子が、エウリュディケが見覚えがないと思った女性の名前を呼んで、当たり前のように普通に名前を呼んだ女性と挨拶をしたのだ。
直ぐ側にエウリュディケという婚約者がいたのに。エウリュディケに最初に挨拶せずにその令嬢を呼び捨てにして、名前まで呼ばせて親しげに笑い合う姿を目撃することになったエウリュディケは、妙な胸騒ぎを覚えてしまった。
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