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「王女は、可愛らしい方ですよ」


婚約者である王太子のフォルミオンの可愛がっている妹で、エウリュディケも彼女に会ったことがある。兄妹だけあって、見た目はいい方だ。自分の可愛さをよくわかっていて、婚約者がいる子息であろうとも素知らぬ顔をして甘えることも平気でやるような王女だ。


(それを甘やかしている筆頭が、王太子だったら欠点の一つになるのに。そんな王女を可愛がっていても諌めているのよね。……でも、王女は目の届かないところで同じことをしているのだけど。誰も、それを王太子に告げ口してないから、味をしめ始めて、面倒くさいことになっているのよね)


彼女主催のお茶会には欠席せずに出席している。可愛らしい顔立ちをしていて、噂話が大好きな王女だ。

あることないことを聞くのが好きな王女で、エウリュディケはその手の話を仕入れて来ることを期待されてはいないが、それに参加しないと面倒なことになるため、出たくもないお茶会に公爵家の令嬢であり王太子の婚約者という仮面を貼り付けて出席していた。

そのことは、アンティフィロスは知っているに違いないが、そこに参加したことはないせいか妹を咎めたことはない。もっとも、それが息抜きになっているとでも思っていて、これ以上の面倒事を作らないために黙認しているのかも知れない。


(言い過ぎて嫌われたくないとかはないと思うけど)


王女のことについて、エウリュディケはフォルミオンに何か言うことはなかった。それこそ、言い出したら関わりが深くなりそうで言いたくなかったことも大きかった。

アンティフィロスは、そんなことを思っているエウリュディケにこう言った。


「外見が可愛らしいだけの生き物は、僕の好みじゃない。そういうのは、黙って座っているならいいけど、口を開くとつまらないことしか言わないから、そんなのとお茶しても全く楽しくない」
「……」


(だからって、ここに居座られても困るのだけど。これは、毎日のように付き合っているバシレイオスが大変でしょうね)


どうやら、アンティフィロスはこれが素のようだ。お忍びとはいえ、王太子の婚約者のところに来るのにエウリュディケの幼なじみを利用しているようにも、わざと利用されているようにも見える。

それに付き合わされているようであり、口実に丁度いいと思っているのか、いないのかはわからないが一緒に来ている幼なじみが、おかしくてエウリュディケは笑ってしまった。そんなことに付き合っても倒れることがないほど元気なことが嬉しいと思ってしまうのだから、それはそれで間違っている気もするが流石のバシレイオスでも本気で嫌なら断っているはずだ。


(断れない性格な気もする。……大丈夫なのよね? 付き合わされて、戻ってから寝込んでるとかないわよね?)


そんなことをエウリュディケは思ってしまっていたが、バシレイオスの方は、どこかホッとした顔をしていた。それがエウリュディケには不思議でならなかった。


(? 何で、そんな顔をするの??)


「エウリュディケ嬢。名残惜しいけれど、そろそろ王宮に行くことにする。……行きたくないけど、バシレイオス。悪いが、付き合ってくれ」
「謝らないでください。そっちが、建前なんですから」
「お前も、建前って言ってるぞ」
「あっ」
「今は、それでいいが王女の前では、くれぐれも気を抜かないでくれ。婚約なんてしたくない」
「わかってます」


アンティフィロスが、本当に嫌そうな顔を隠すことなく言ったことにバシレイオスも、神妙に答えていた。

それを見て、エウリュディケは何というか疎外感が半端なかった。そんな風にいつもなら思わないのに仲間外れにされていることが寂しいと思ってしまったのだ。


(変な感じ。こんなことを思うのは初めてだわ)


幼なじみをここに残して行くわけにはいかないのだ。エウリュディケには王太子という婚約者がいるのだから2人っきりで、ゆっくり過ごすなんて叶うわけがない。


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