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しおりを挟む「エウリュディケ?」
「ううん、何でもない。殿下」
「何かな?」
「彼の実家では、手加減なさらないでくださいね」
「ふふっ、もちろんだとも。そのつもりで来ている。エウリュディケ嬢が言うなら、益々手は抜けないな。期待していていいよ」
アンティフィロスは、にこにこしながら不穏なことを口にした。
(ちょっと煽りすぎたかな? この人、何も言わずとも凄そうだし)
「ちょっと、殿下。無駄にやる気にならないでください! エウリュディケも、煽るようなことはやめてくれ。冗談じゃ済まなくなる」
「あら、隠し事をしていた幼なじみに責められたくないわ」
「っ、」
にっこりと微笑みながら、エウリュディケがそう言うとバシレイオスは申し訳なさそうにして目を逸らした。
(隠し事してることに思うところはあるってわけね。……これ、殿下が言わなかったら、いつ言うつもりだったんだろ?)
アンティフィロスは、そんな2人を交互に見て何食わぬ顔でこんなことを言った。
「エウリュディケ嬢。彼は、君のことを驚かせたかったんだと思うよ」
「え?」
「すまない。バシレイオス。僕が我慢ならずに連れ回すことになって、こんな再会になってしまった。彼が、やたらとエウリュディケ嬢の素晴らしさを僕に語るから会って見たくなってしまったんだよ。もう、口を開けば、エウリュディケ嬢のこたばかりで……」
「で、殿下!?」
「事実だろ?」
「っ、」
バシレイオスは、王子の言葉に顔を真っ赤にしていた。その顔をエウリュディケは初めて見た。
(私のこと自慢してくれていたってこと……? 自慢されるようなことした覚えないんだけど)
エウリュディケは、そんなことを思ってしまった。
どうやら、本当にこの国が彼には合わなかったようだ。どう合わなかったのかまではエウリュディケにはよくわからなかったが。
そして、バシレイオスの実の両親と弟に対して、アンティフィロスはエウリュディケが期待した以上に良い働きをしたようだ。それこそ、エウリュディケが焚きつけたことが大きかったのかも知れない。
アンティフィロスが、あの調子で嫌味を炸裂させたらしく、本当に優秀な方は兄のバシレイオスの方だったと思わせ、それでも最初はそんなわけないと思っていたようだが、本当に優秀な成績をおさめていることを知ることになったのも、すぐのことだったようだ。
どうにかして養子を撤回させようとしていたようだが、今更だとバシレイオスの養父母たちはとりあうことはなかったようだ。
あのアンティフィロスも、騒がせるだけ騒がせて、大したことないとわかったからと留学してくることはなかった。
王子いわく、エウリュディケがいるところに通いたい気持ちがかなりあったようだが、王太子と婚約していることも考慮して、仲良くするのを大っぴらにするのは控えることにしたようだ。
エウリュディケとしては、アンティフィロスがこちらに留学しに来ていたら、バシレイオスも一緒になって留学に来ていそうな気がした。
(バシレイオスが毎日、大変だと思っていることをこちらの学園で繰り広げることになったら、国同士のいざこざに発展しかねないから、それの対応をするのは自信ないわ。……ちょっとだけ残念だけど、仕方がないわ)
それもこれも、バシレイオスの実の弟が全く大したことないレベルにがっかりしてのことだと学園のみんなだけでなく、テネリアの大半が知ることになったのだ。
そんな風に広まるようなことをしたようだ。直に見たかった。そうすれば、エウリュディケは積年の恨みつらみもどこへやら、スッキリしたに違いないが、噂話でしか耳にすることは叶わなかった。それも、尾ひれがつきまくったものばかりで、面白おかしく脚色されたものばかりだった。
(本当にバシレイオスの実家に喧嘩を売りに行ったみたいね。……煽りすぎたかしら?)
エウリュディケの家族も散々なまでに馬鹿にしていたのに手のひらを返すようにバシレイオスへの評価を変えたのは、すぐだった。
エウリュディケは、それに呆れるしかなかった。
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