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しおりを挟む「それに跡継ぎから外されるような子息を養子にするとは、酔狂な叔父がいたものだな」
「酔狂どころか。偽善もいいところだと思いますよ。そもそも、隣国の連中は、そういう者ばかりのようですし。他の国も、甘い連中ばかりですが、あの国はその中でも一番ですから」
「そんな国でも、行くと腹を括ったのはいいが、もっと早くしてほしかったものだ」
「まぁ、遅すぎるわけではないのですから、そこはいいのではありませんか。その間にエウリュディケが婚約者に嫌われるどころか、益々気にかけてもらえているようですし」
「そうだな。お優しい方で良かったとは思うが、その辺も何の取り柄もないなら、見習ってほしいものだがな」
「っ、」
両親や兄たちが、バシレイオスを馬鹿にして笑っていることに気づいて、エウリュディケは腸が煮えくり返り返りそうになるまで、すぐのことだった。
「全く、お前も、お前だぞ。王太子と婚約したというのに幼なじみの見舞いに足を運び続けて何を考えているんだ」
「本当ですよ。病弱で、長くもないともっぱらの噂なのに。王太子殿下がお優しいからって、幼なじみに優しくしすぎですよ」
「っ、」
もとはといえば、母親同士が仲良くて会わせたというのにあの家の次男が、エウリュディケに花瓶を投げつけて以来、あまり仲良くしていないようできっかけを作ったことすら都合よく忘れたかのような母の言い方にエウリュディケは腹が立って仕方がなかった。
「お前な、優しいふりも大概にしとけよ」
「え……?」
(ふりって、言った……?)
エウリュディケは、流石に自分の耳を疑ってしまった。
それまで、エウリュディケはたくさんのふりをしてきた。でも、バシレイオスに対してそんなことをしたことは一度としてなかった。幼なじみに関することで、自分を良く見せるためにしたことはなかったのだ。それなのにふりと言われたことにぞわりとエウリュディケの中で、どす黒いものが溢れ出しそうになっていた。
「王太子の婚約者になったからって、急にはやめられないとはいえ、折り合いくらいつけられただろ? 幼なじみだとしても使えもしない役立つの子息なんぞより、将来自分の役に立つ方に力をいれるべきくらいわかるはずじゃないか」
「……」
「まぁ、これに懲りたら優しいふりも、ほどほどするんだな。王太子がやるならまだしも、お前がやっても偽善が透けて見えるぞ」
「っ、」
家族の物言いはあまりにも酷いものだった。思わず怒鳴りたくなったが、エウリュディケはバシレイオスがそれを望まないこともわかっていた。
(こんな風に家族に思われていたことに気づいていなかったことが一番あり得ないわ。……これが、私の血の繋がった家族なのね。こんなのが、聖女の血筋だからだとしたら、私が毛嫌いするのもわかるわ。絶対、ろくでもないに違いないもの)
エウリュディケは、この頃は聖女のことを調べていなかったこともあり、血筋がそうさせると思っていたが、血筋はあまり関係なかったことをあとになって知ることになるとは思ってもみなかった。
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