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しおりを挟むバシレイオスが叔父夫妻の養子になって、隣国に行ってしまうまで、エウリュディケの家族は幼なじみのことでエウリュディケがやることなすことで、いい顔をすることはなかった。エウリュディケはそれをいつものこととずっと受け流していた。
エウリュディケが一方的に幼なじみに会いたいがために見舞いにばかり行っていたのだが、婚約したエウリュディケしか友達がいないからと言って、やたらと呼び付けて何も言わないのをいいことに多忙なはずのエウリュディケが何かそれてヘマでもしたらと思っていたのかも知れない。
それこそ、忙しくしているエウリュディケの役に立つようなことを何一つとしてせずに邪魔でしかないと思っているようだが、邪魔な存在がいるとしたら家族が一番邪魔だったかも知れない。それに両親や兄は全く気づいていなかったようだ。もっとも、エウリュディケが婚約する前から同じような邪魔しかしたことない家族だ。それがわかっていたら、幼なじみに邪魔うんねんは言えなかったはずだが、そういうことを平気で言えるのがエウリュディケの家族だった。
別にバシレイオスが寂しいからと見舞いに来てくれとせがんでいたわけでは決してない。エウリュディケが会いたくて会いに行っていたにすぎないのだが、両親も兄も変な誤解をしたままだったようだ。
(そういえば、最近はバシレイオスのことで嫌味なことばかり言うのよね。何で、会ったこともないお父様も、お兄様も、噂だけでごちゃごちゃ言うのかしら? 自分たちの噂だといつも、そんなの噂に過ぎないって言って、噂している人たちをボロクソに馬鹿にしているのに。それか、噂が本当の時は全く聞こえないふりまでしているのに。それが、他人となるとコロッと言っていることが変わるのよね)
それこそ、この頃のエウリュディケは聖女のことで同じように誤解していて、同じようにボロクソに思っていたのだが、それと同じ状況だということには全く気づかなかった。
エウリュディケと幼なじみの叔父夫妻は、バシレイオスをその辺のくだらない噂話を真に受けるようなことはなかった。ただの一度もだ。特にエウリュディケは彼のことを良く知っていると自負していたからに他ならない。叔父夫妻の方とは、エウリュディケは会ったことはないが、バシレイオスが養子になるくらいだ。いい人に違いない。
そもそも、人を悪く言うばかりで、都合のいい人しか褒めちぎらない人たちも、どうかしているのだ。
だが、悲しいかな。自分たちの都合でしか物事を見ないのは、エウリュディケの家族だけではない。テネリアでの基準がそれに染まりきっているのだ。エウリュディケも、幼なじみがいなければ、家族と同じ思考回路になっていたかも知れない。
噂を真に受けている筆頭のエウリュディケは自分の家族がいることを失念していた。そういう、考えに至る人たちだということを忘れていたのだ。
「全く、病弱で家族に迷惑かけている分には構わないが、エウリュディケが迷惑をかけられ続けるのは、どうかとずっと思っていて気が気ではなかったが、やっと腹を括ったようだな」
「?」
(いきなり、何の話かしら? しかも、気持ち悪いくらい上機嫌。どうせ、ろくでもないことね)
父の言葉に何を言っているのかが、エウリュディケは最初わからずに不思議そうであり、怪訝な顔をしてしまった。それこそ、家族が機嫌がいい時は、エウリュディケにとって機嫌がよいままではいられないことの方が殆どだった。
でも、それだけで母や兄は何を言いたいかがわかったようだ。エウリュディケだけがわけがわからない顔のまま、目をパチクリするより先にこんなことを言い出したのだ。
普段から、言いたいことをすぐに理解してくれればいいのだが、母も兄もこういう時だけ意気投合するのだ。やめてもらいたいものだ。
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