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しおりを挟む幼なじみが遠くに行ってしまってから、エウリュディケは益々王太子と距離を縮めることになった。心の距離は相変わらずだったが、その辺のことは周りに一切バレることなく、見た目の良さと表情や仕草などだけは仲睦まじい姿となって映っていて至るところで、寄り添うことが当たり前の2人として目撃されるようにしたのだ。
聖女の血筋だけを罵って嘲笑っていた面々も、そんな2人にこれ以上何か言い続けても無駄だと思ったようで、エウリュディケのことを褒めちぎる側に回ったのも割とすぐのことだった。
そんなエウリュディケのことを婚約者となった王太子がきちんと理解しているのかはわからないが、その辺のことを追求することはなかった。それを聞いたところで婚約が解消されることになりそうもないこともあり黙っていた。
そんなエウリュディケのことを知ってか、知らずか。無理することはないと頑張り続けるエウリュディケに言うくらいで、エウリュディケに触れることが多くなって、距離も以前よりぐっと強くなっていて、それがたまらなく嫌でならなかった。
(言葉だけで十分なのに。距離が近くなって来ていて、顔が近くにあると殴り倒したくなってしまって駄目だわ。この方、全く私が何を思っているかを理解してくれていないことだけは確かだわ)
家庭教師が大勢辞めることになった出来事の後から、フォルミオンに益々心配されているような気がするが、エウリュディケが望むことをしてくれることはなかった。
エウリュディケが聖女について掘り下げて調べていても、気づいているのか。いないのかはわからないが、そちらのことには知らぬ存ぜぬを貫いていた。
婚約者としてきちんと役割をまっとうできていれば、彼にはどうでも良かったのかも知れない。そんな気がしてならない。
(殿下の隣に立ち続けるに相応しい女性に見えるようにし続けろってプレッシャーを感じるのよね。公爵家の令嬢として婚約が解消されない限りは、頑張り続けないわけにはいかない。そこまで頑張ることないって言うなら、解消してくれる方向で動いてくれた方が私は嬉しいのだけど、ちっとも伝わっていないところを見ると、王太子は私をきちんと見てくれていないってことに思えてならないわ)
そう思いながら、エウリュディケの頭をよぎるのは幼なじみのバシレイオスに会いたいなと思う気持ちが大きくなる一方だった。
エウリュディケがあんなに嫌っていた聖女に関して色々調べてから、少し心境の変化があったこともあり、バシレイオスからの返事の手紙が増えたというか。早くなった気がしなくもない。
病弱な幼なじみが、それだけ元気になっている証拠だと思ってエウリュディケは喜んでいた。祈ることしかできなくて変な気分だが、それでも誤解していた聖女のことを良く知りもせずに嫌っていたものだと思って、そこについて大反省した。
本気で大反省して、エウリュディケが心を入れ替えたのは、初めてのことだった。
バシレイオスが、自分の側にいる時だけは悪く思うことすらしないでくれとあの約束が心に響いて仕方がなかった。そんなことを思っていたエウリュディケは、不思議な夢の話を手紙にして幼なじみに送っていた。
何となく、この話だけはきちんと誤解なく伝えなくてはならない気がして、何度も、何度も書き直していた。
(彼女も、彼の気持ちも、きちんと伝えなければ。どちらも、悪くないんだもの)
他の誰もまともにとりあってくれずとも、バシレイオスだけはスルーせずに受け止めてくれると思ったのだ。
「そんなことしても、許されることではないのに。彼女を探さなきゃいけないのに」
そう思いながらも、エウリュディケは聖女の話とどの国でも残っていない聖女を追いかけて来た男性のことも書いていた。
書き直すたび、エウリュディケは堪えきれずに泣いていた。
聖女となった最愛の人を取り戻すためにやってきて、彼女に再会することなく死んだのだ。
だから、この世界が一層のこと滅んでしまえばいいと思わずにはいられないことをエウリュディケは書いていた。エウリュディケも、彼と全く同じことを今も思い続けるのをやめられないことも書いてはいない。
今は聖女が生まれ変わっているなら、会いたい気持ちでいっぱいだとも書いていない。
(こんなこと書いて送ってもバシレイオスが困るだけなのに。何やってるんだか)
そう思いながらも、隣国に行ってしまった幼なじみに手紙を送っていた。泣き腫らした顔を見て、婚約者はあらぬ誤解をしたようだが、エウリュディケはそれを面倒くさいと内心で思いながら放置した。
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