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しおりを挟むエウリュディケは、召喚された女性の夢を見た後で、別の視点からも夢を見ることになった。別の世界から、彼女を追いかけてやって来た彼女の元の世界の婚約者だ。彼らは相思相愛で、もう時期に結婚するはずだった存在が縁もゆかりも無い世界を救うために召喚されたことを知って、死にものぐるいで連れ戻すために追いかけて来た人物が、その人だった。
彼女を連れ戻すことができなくとも、全く知らない世界であろうとも添い遂げられるなら、それで良かった。彼女と一緒にいられるなら、それで構わなかった。
たどり着いた先で、聖女となった女性を見つけるまで、そんなに時間はかからなかった。時の人になっていて、目立っていたことも大きかった。彼女は世界を救った後で、別の人と結婚して家庭をもっているのを目撃することになったのだ。
「どうしてだ。どうして、そんな奴と結婚しているんだ」
彼は、聖女としての役目を終えた彼女を見つけることになった。戻ることをすっかり諦めている彼女が、別の人と添い遂げることにしたことを知って絶望して、裏切られた気持ちになるのも、すぐだった。
エウリュディケは夢の中で、顔がよく見えない人たちが多かった。そんな中で聖女が結婚した相手の顔は、はっきりと見えた。王太子殿下と瓜二つだったことにエウリュディケは、ゾッとした。
何度も見るうちに少しづつ、顔が見えるようになって、聖女を追いかけて来た青年の顔が、ようやく見えた。その顔はエウリュディケの幼なじみと同じ顔をしていたことに驚かずにはいられなかった。
でも、エウリュディケは彼らの顔が見えたはずなのに目が覚めるとそれを忘れてしまっていて夢の中だけでしか、その顔を覚えていられなかった。
聖女となって用済みとなった彼女のことも、この世界のことも、迎えに来た彼は呪った。
「こんな世界滅びてしまえばいい。他所から召喚して保たねば滅びかけるような世界、次に聖女を召喚した時に滅んでしまえばいい」
そんな風に呪いに呪っていたところを彼は他所から聖女を連れ戻しに来た者と知られて、邪魔者として殺されることになったのだ。
「君に会いたくて、ここまで来たのに。君は、そこまでではなかったのか……?」
相思相愛で、お互い愛し合っているものと男は信じて疑っていなかった。でも、聖女となった女性が、結婚して我が子を抱きかかえて幸せそうにしているのを見て、それでも叶うなら彼女とその子供と家族でありたかったと男は思っていたが、叶わなかった。
最後まで、聖女は愛してやまない最愛の人が自分を迎えに来たことを知らなかったようだ。
ただ、その子供の名前が、迎えに来た男の名前だったことを知って、死にゆく中で男は彼女が自分を忘れてはいなかったことに何とも言えない感情を抱きながら、死ぬことになった。
彼女への怒りや絶望が消えても、彼の呪いは残り続けた。
そして、そんな夢を見続けるうちに顔を覚えて目覚めることができなくとも、何があったかだけは忘れることはなかった。
(なんてことなの。あれが、本当のことだとしたら……)
それは、エウリュディケが勝手に見た夢のはずだった。目が覚めた時、エウリュディケは発狂しかけた。
聖女側の記憶は、鮮明ではなかった。
でも、追いかけてたどり着いた男性の見たものはとても鮮明だった。でも、主要な人物の顔だけがエウリュディケからはっきりと覚えたまま目覚めることができなかった。
まるで、エウリュディケが体験したかのように色鮮やかだったことで、気が変になりかけた。
(世の人たちは、誰も知らないこと。そして、多くの人たちが知ろうともしないこと。自分たちが幸せならば、それでいい人たちばかりの世界で、あれが本当にあったことだとしたら……。追いかけて来た聖女の大切な人を殺したんだ。そして、私は……)
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