完璧すぎる王太子に愛されていると思っていたら、自称聖女が現れて私の人生が狂わされましたが、最愛の人との再会で軌道修正を始めたようです

珠宮さくら

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聖女のことが知りたくてたまらないエウリュディケは、他国の親戚のもとに養子に行った幼なじみとは、離れてから文通をしていた。当たり障りのないことばかりだったが、ふとエウリュディケは思いたってテネリアで家庭教師たちが一斉に辞めたうんねんの話は全くせずに自分のルーツだからと調べたらハマったことにして、バシレイオスの国での聖女の話や幼なじみが聖女をどう思っているかを知れたらと思ったのだ。


(おかしなものね。前までは、こんな話題を自分から振る日が来るとは思わなかったのに)


そんなことを思いつつ、聖女について何も知らない頃は、知らないというのにその単語だけで嫌でたまらなかった。それで変に悩み続けることもなかった。

それが、幼なじみと気軽に会うこともできなくなって、気になって仕方がなくなったのには理由がちゃんとあったようだ。エウリュディケの中に本人も忘れ去った中にしっかりとあったのだが、この時のエウリュディケは全く知りもしなかった。

それをエウリュディケがしっかりと見つけ出していたら、婚約者とのことでは少しはいい方向に変えられたのかも知れない。いや、もっと悪い方向に進む手助けをしていたかも知れない。それが、誰にとってのものになっていたかの違いでしかなかったことを知るまで、かなりかかることになるとは思いもしなかった。

エウリュディケは見つけ出せていたとしても、元のように戻りたいと思うことのない未来が訪れることになるとは想像もしていなかった。

すっかり様変わりした人たちの言葉を耳にしたエウリュディケは、それが本心だったのではないかとすら思い始めていた。それが、みんなの本心であり、本音だったのではないかと。

どんなにオブラートに包んでも、みんなの中にはそれがくすぶっていて、それを隠す必要がないからと表に出てきたのではないか。それとも、いざとなった時に縋り付こうと思っていたから、つけ込まれたのかも知れない。何事もなかったように元に戻れても、何もかもなかったかのように戻りたいとはエウリュディケは欠片も思わなかった。

何より、好きになれないままの婚約者に色々言われてしまった後では、これから先、どんなに努力をこれまでのように惜しまず、自分のために頑張るなんて気には欠片も持てなかったことも大きかった。


(他所の国のように聖女を召喚してでも、滅びたくないとみんな思っていたってことよね。全く気づかなかったわ。みんなが、心の奥底で滅びるよりも生きながらえる世界を望んでいたなんて。それなのに聖女のことをボロクソに言っていたなんて信じられないわ。私は、聖女に頼るくらいなら滅んでしまうべきだとずっと思っていたのに)


エウリュディケは、様変わりした周りを見ながら、そんなことを思っていた。

エウリュディケは、聖女に縋り付いてまで生きながらえたいとただの一度として思ったことはなかった。そんなことになるくらいなら、潔く終わりたいと思っていた。召喚なんてしてまでして、他所の世界から聖女を呼び出すなんてしたいと思わなかった。その聖女に何もかも捨てさせて、誰も知り合いもいない世界を救えなんて言えない。更には、呼び出しておいて救ってもらっても、その聖女を元の世界に帰せはしないのだ。救ってもらえた恩返しにこのまま、この世界に住み続けて何不自由ない生活を約束したとしても、それで釣り合いが取れるとは、どうしても思えなかったのだ。

でも、突然現れた聖女は、エウリュディケが思っていた聖女とは違っていた。この世界に来たくて来て、欲しいものを手にして、人の記憶をいいように改竄して、エウリュディケのことを悪者に仕向けたのだ。


(あんな女に助けを求めたなんて、滑稽もいいところだわ)


全てをエウリュディケのせいにして、エウリュディケだけを悪者にして、召喚した聖女を信じて疑わない姿を目の当たりにしたことで、そんなことまでして生きながらえたいと願うことが信じられなかった。

そんなことを願うみんななんて、一層のこと滅んでしまえばいいと呪いの言葉が渦巻いて仕方がなかった。とめどなくエウリュディケの中を支配していくのを止められなくなっていたが、その気持ちをエウリュディケは止める気にもなれなかった。


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