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しおりを挟む「エウリュディケ! 暇なら、遊ぼう!」
「暇じゃないから、遊ばない」
バシレイオスの弟が、エウリュディケが来ているとわかるとそんなことを言いに乱入して来るようになったのは、エウリュディケが幼なじみのところに通うようになって、かなり経ってからだった。
それまでは、弟の方は兄の時に連れ回せなかったこともあり、両親が何かと末の息子を連れ出していたのだ。
特に母親の方が、バシレイオスをエウリュディケに任せて家にいなかったのだが、その頃の方が良かったとエウリュディケは思っていた。
最近は、こうして乱入して来るようになったのだ。弟の方に家庭教師がついて、みっちりと勉強することになったからだ。その頃には、母親の方も落ち着いたようで、連れ回すことに飽きたようだ。いや、飽きたというか。弟の方に全く落ち着きがないせいで、連れ回した先で色々とやらかしたようで、平謝りすることになることがわかって連れ回さなくなったようだ。
その辺は、エウリュディケがやんちゃな時に連れ回せなかったことでわかりそうなものだが、バシレイオスたちの母親は周りの愚痴も色々聞いていたはずだが、自分の息子は大丈夫だと思っていたのかも知れない。
それか、そこまで大変だとは思っていなかったのかも知れない。それが身をもって知ることになって、お手上げ状態になるのも早かったようだ。
バシレイオスが病弱な分、弟の元気がありあまっているかのようになっていたが、弟が別段周りの子供よりもずば抜けて元気なわけではなさそうだ。元気がありあまっているところは、昔のエウリュディケと似ていたが、ちゃんと比べるなら弟の方は大したことはなかった。
だが、昔と違ってやんちゃを卒業したエウリュディケにとっては、彼はやんちゃ過ぎるのと人の話を全く聞かないところがあって、面倒なことの方が多かった。
何より見舞いに来ているエウリュディケのことを暇人だと思っているところが、何より好きになれなかった。
(大体、私はバシレイオスのお見舞いに来てるって知ってるはずなのに。遊びに誘うって、何考えてるのかしらね。実の兄が、部屋から殆ど出れないのを知っていながら、外に連れ出そうとするんだもの。私が好きになれないのも、無理ないと思うけど。それに私のことを都合よく利用するところも、好きじゃないのよね)
それこそ、バシレイオスの弟が乱入して来る時は、大抵家庭教師が来る前で勉強がしたくないから、エウリュディケと遊んでばっくれようとしていることが多かったのだ。
わかりやすい子だと思ったが、彼は兄のバシレイオスのことを見下しているようにも見えて、エウリュディケはその辺も好きではなかった。むしろ、そこが一番エウリュディケは気に入らないところで、バシレイオスの弟が嫌いだと言ってもいいくらいになっていた。
「兄上はいいよね。病弱だからって、家庭教師も僕みたいについてないし、日がなベットでゴロゴロできてさ」
「……」
「っ、」
そんなことを言われてもバシレイオスは苦笑するばかりで、弟を怒ることはなかった。
エウリュディケは、幼なじみの弟の言葉に射殺さんばかりの目で睨んでしまったが、睨まれた方が気づくことはなかった。
目があっていたら、震え上がっていただろうが、どうやら弟は物凄く鈍感だったようだ。まぁ、平気で兄にそんなことを言えるのだから、鈍感で人の気持ちを欠片もわからないデリカシーのない子息てあることは間違いないだろう。
(好きでベットから出れないわけじゃないのに。なんてこと言うのよ! 信じられない!!)
エウリュディケはすぐにでも弟をそう言って怒鳴りたかったが、家庭教師が来たとなり、メイドが呼びに来るのを知るやいなや諦めたように自室に戻って行ったのをエウリュディケは親の敵のように睨みつけていた。
その顔は、公爵家の令嬢のしていい顔ではなかった。
「バシレイオス。いつも、あんなことを言われているの?」
「今日はいい天気だから、外で遊びたかったんだろう。エウリュディケもいたからね」
(そんなの理由になるわけないじゃない!)
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