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しおりを挟む「こんにちは。私、エウリュディケ・グリーヒェンライト」
「……はじめまして、僕はバシレイオス・エルザス」
ベットに顔色悪く横になっているバシレイオスにエウリュディケは、泣きそうになってしまった。息をしているだけでも辛そうに見えたのだ。
(懐かしいな。とっても、懐かしいのに。このまま消えてなくなってしまいそう)
思わずエウリュディケはその手を握りしめていた。その手は、思っているよりうんと冷たくて、それにゾッとしてしまった。
(駄目。せっかく会えたのに。いなくならないで。……彼が、少しでも元気になりますように。私の有り余っている元気をあげられたらいいのに)
そんなことをエウリュディケは無意識にしていた。いつもなら、具合が悪い人を見ようともそんなことをしたことはなかった。
兄が高熱で寝込んでいても、平気で兄の部屋でエウリュディケは大暴れしたこともあった。妹としては良かれと思ってのことだが、一般的に見たら嫌がらせでしかない。高熱出して寂しいだろうと兄の部屋で元気いっぱいにおままごとをしていただけだが、高熱出してぐったりしている兄の周りを兄の好きな玩具で囲ったりした。
「エウリュディケ様!?」
「何をなさってるんですか?!」
「何って、お兄様の好きなものを並べてただけだよ?」
それこそ、好きなものを手当たり次第、兄の周りに置いていたせいで、兄が埋まっていたことへの配慮がなかったのだ。
両親やメイドに騒がれたが、兄の方は熱にうなされていて何があったかを知らない。
エウリュディケとしては寂しかろうと思ってのことで、兄を埋め立てようとしたわけではなかったのだが、熱が完全に下がるまでは兄への接近禁止令が出されることになったが、何がいけなかったのかをエウリュディケは欠片もわかっていなかった。
そんな破天荒なことをしてきたが、バシレイオスを見たエウリュディケは、兄と同じことはできなかった。兄と同じことをしていたら、それだけで寿命が縮んでしまいそうに見えたのだ。
埋め立てるように周りを囲ったら、そのまま兄の時は熱がこれ以上あがるのかというほどあがったのだ。そんなことをバシレイオスにしたら、致命的にしかなり得ない。
それと初対面でバシレイオスの好きなものを知らなかったのも大きかった。知っていたら、彼のベッドの上は兄の時のようになっていたかも知れない。
そう、エウリュディケに全く悪気はないのだ。寂しかろうと思ってのことだ。
バシレイオスと初めて会った時のエウリュディケは、純粋に普通の子供がするようなことをしていた。彼女の両親やメイドが見ていたら、それだけでも驚いていただろうが、目撃者はバシレイオスのみだった。
彼の母親は、息子を見ているのも辛いようで部屋まで案内しても一緒にはいなかったのだ。
バシレイオスは、普段のエウリュディケを知らないこともあったが、彼女が何を自分にしてくれたのかをきちんと理解していたようだ。
「……ありがとう」
「え?」
「楽になったよ」
「っ、」
まるで、バシレイオスは当たり前のようにエウリュディケにそんなことを言ったのだ。それにエウリュディケは最初こそ驚いてしまったが、その後は何かと会いに行く日々を送るようになり、同じことをし続けた。それが当たり前となっていって、元気過ぎることが落ち着いていくことを不思議に思うこともなくなった。
母やメイドたちは、元気のあり余っているエウリュディケがバシレイオスのところに通うようになり、大はしゃぎすることもなくなり、物凄くホッとしていた。バシレイオスの母親も息子が少しずつ元気になっていくのを見て喜んでいた。
「やっぱり、年の近いお友達ができるのは違うみたいね。エウリュディケちゃん、これからも遊びに来てね」
「はい!」
そう、この2人が幼なじみとなって、母親同士はお互いの利害が一致して喜んでいたはずなのだが、それも月日が経つと変化することになるとは、この時のエウリュディケは思ってもみなかった。
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