8 / 70
8
しおりを挟むそんな毎日を送っていたエウリュディケの母は、心許せる人物に愚痴っていたようだ。それこそ下手なところで愚痴れば公爵家の汚点になりかねないから、言う人間は選んでのことだったようだ。
「なんて子なのかしら。このままでは、こちらの身がもたないわ」
メイド任せにしていても、母親としてどうにかしなくてはならないこともある。メイドよりも体力は使ってないはずだが、エウリュディケをどうにかしなくてはと思うと放置しておくこともできず、有り余る体力にあれよあれよ言う間に娘に付き合わされてしまって、公爵家の夫人としてやらねばならないことをそれなりにこなしてきて、それなりのパーティーでは体力が必要になるが、そんなパーティーを2つ、3つはしごした方がマシなくらいエウリュディケのやることなすことの方が疲れていた。
そんな愚痴を聞かされていた夫人は、こんなことを言った。
「羨ましいわ。うちの息子は、病弱であんな風に遊び回っているところを見たことがないもの」
エウリュディケとバシレイオスの母親同士が、昔から付き合いがあったらしく、そんな話をしていた。バシレイオスの母親が息子を連れて出かけるなんてことは、夢のまた夢でエウリュディケの大はしゃぎするのを見ては、最初の頃は驚いていたが、段々と羨ましそうにするようになったのだ。
エウリュディケの母としては羨ましがられることでは全くなかったが、それでも誰かに羨ましがられることは嫌ではなかった。もとより、誰かに羨ましがられるようなものを持ち合わせていない人間にとっては、その言葉は嬉しくて仕方がなかったようだ。人間とは実にわかりやすい生き物だ。相手が羨むものを持っているとわかるとそれだけで優越感にひたれるのだから。
本当に嘆いていて羨んでいる相手を親身になって心配しているかのようにエウリュディケの母は、彼女の息子のことを聞くことにした。
「そんなに悪いの?」
「えぇ、身体が弱すぎで抱きあげるだけで壊れるんじゃないかと思ってしまうほどよ。現に不用意に触ると具合を悪くしてしまうから、外で遊び回らせることもできないわ」
「そこまでなの」
そんな会話がなされていて、エウリュディケの母は娘を会わせることにしたのは、母の方が疲れてしまっていて、バシレイオスと会わせたことで少しは大人しくなるのを期待してのことのようだ。
それこそ、ありあまる元気を分けられるのなら、半分以上を分け与えてくれれば助かるとかなり本気で思っていたようだ。
それこそ、エウリュディケの面倒を見続けることに疲れ果てて、別のところで世話をされることを願っていただけかも知れない。
エウリュディケは、そんな思惑なんて知らずにいた。ただ同い年の男の子が病弱すぎて、どこにも行けないから話し相手になってあげてと母に言われて会いに行ったのが最初だった。
(どこにも行けないほどなんて、どんな子だろう? ……そもそも、その子とどんなこと話せばいいんだろ? お兄様の方が話が合うんじゃないのかな?)
そんなことをエウリュディケは思っていた。会うまでは色んなことを思っていたが、駄目だったら兄に代わってもらえばいいかと思っていたが、代わってもらうことはなかった。
バシレイオスに初めて会った時のことを今も昨日のことのように覚えている。彼を初めて見たはずなのにエウリュディケは、なぜか懐かしさを感じたのだ。
とても懐かしい人にようやく会えた気がしたのを今も覚えている。有り余っている元気が一瞬で、落ち着くような妙な感覚もした。
52
お気に入りに追加
265
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる