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しおりを挟むギュスターヴの方は、もうちょっとまともだった。いや、もうちょっとというが、まともな人からしたらおかしいレベルでしかなかったが、本人は至ってまともであり、頭がいいと思っていた。
「あいつに跡継ぎは無理だと言わせればいいだけじゃないか」
クレールとの婚約が破棄となり、サインした書類を見て、そんなことを呟いた。どんなことをしても、跡継ぎに戻る気はないのだが、バシュロン子爵家には、弟と自分しか男子がいないから、弟さえいなくなればいいと思ったのだ。
留学から戻って来てからでは、両親はあちらに味方するに決まっている。それこそ、弟と話すのもさせてもらえなくなる可能性もある。
昔からそうだ。両親も、あの家の使用人も、親戚たちも、なぜかオーギュストに優しく期待しているかのようにしていた。長男は、ギュスターヴの方なのに。そんな期待を欠片もしていないかのようにされてきた。
それにどれだけ腹が立ったことか。だから、わからせるために色々言っていただけなのに。それを意地悪だと言われた。とんでもない誤解をされたものだ。
「面倒くさいが、こっちから行けばいいな」
ギュスターヴは、そんなことを思って留学先に向かうことにした。クレールのようにちゃんと弟の行ったところにたどり着けはしたが、そこにオーギュストは既にいなかった。
そう、留学期間を終えてルイーザと一緒に戻った後だったのだが、それを知らないギュスターヴは無駄に頑張っていた。
「そんな生徒は、この学園にはいません」
「は? そんなわけがない」
学園の事務所でギュスターヴは、明らかに面倒くさそうにしている事務員にムッとした。
きちんと仕事をしていないからだと決めつけていて、そこで揉め事を起こしたギュスターヴは色々ありすぎて、その事務員を突き飛ばした。
そこから暴力をふるったとなり、警備に拘束されることになり、実家に問い合わせをされて迎えに来てもらわないと解放できないと言われて、全部が水の泡になったと思っていた。
「本当のことを話せ」
「は?」
嘘などついていないギュスターヴは、そんなことを言われて眉を顰めずにはいられなかった。
「お前の実家とやらは、お前のようなのは知らないと言っているぞ」
どうやら、勝手に弟のところに会いに来ていたのがバレていたようで、その時点で勘当されたようだ。
どんなに誤解だと言っても迎えが来ることはなく、ギュスターヴは弟に会うこともできないまま、散々な人生を送ることになった。
「くそっ、どうして私が、こんな目にあわなきゃならないんだ」
クレールのようなハズレな女にまんまと騙されたせいだとか。ルイーザのようなので我慢しておけばよかったとか。ギュスターヴは、そんなことを思いつつ、そもそもオーギュストのような弟がいなければよかったと思っていた。
「あんな弟がいなければ、跡継ぎを替えようなんて思わなかったはずなんだ。私が、長男だったのに」
ギュスターヴは、そもそも何がいけなかったのかに全く気づくことはなかった。
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