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しおりを挟む「ルイーザ。本当にあんなのと婚約するのか?」
「えぇ、気に入ったんです」
「「……」」
ルイーザは、父と兄に何度も確認された相手と婚約したと言っていた。
それは、2人だけでなくて周りも……。
「ルイーザ様。あんな方と婚約なさらなくとも、ルイーザ様でしたら、もっとお似合いの方がいらっしゃると思いますが」
「そうですわ。もっと素敵な方は、あの方に比べればたくさんいますわ」
「でも、気に入ってしまったのよ」
「「「「……」」」」
令嬢たちはクレールのこともあり、最初の頃はあれこれと反対されたが、気に入ったと言うとみんな少しずつ黙っていった。
「ルイーザ」
「アンリエットお義姉様」
「無理することないわ」
「っ、」
「何かしてほしいのなら、何でも言って頂戴。どんなことでも、ルイーザのお願いなら叶えるわ」
「ありがとうございます。でも、今回は自分で何とかしてみせます」
「そう」
アンリエットだけは、ルイーザがとんでもなく評判がいまいちな子息と婚約したがる意味をわかってくれたようだ。
ルイーザは、ギュスターヴ・バシュロンという子爵家の子息と婚約をした。その子息を気に入ったのは本当だ。ルイーザが探している子息にピッタリだった。
誰もが、その子息と婚約したがらず、長男に生まれたからと跡を継ぐのは自分だと思っていて、バシュロン子爵家の厄介者となっている子息で、できのいい弟がいてギュスターヴに何かと意地悪いことをされているのをひたすら耐えていた。
それを知って、丁度いいと思った。だから、ルイーザは婚約してからギュスターヴのことをクレールにあーでもないこーでもないと脚色して伝えた。
ギュスターヴという子息のことを知っていれば、そんなわけないとわかりそうなものだが、クレールはそんなことに気づくことはなかった。
(はぁ褒めるところなんてない子息を褒めちぎるって難しいわ)
ルイーザは、慣れないことに奮闘していて、自室で疲れ果てることが続いていた。流石にギュスターヴの相手をするのも限界となった頃にやっと、クレールが……。
「お義姉様! 私、ギュスターヴ様が欲しいわ」
「……」
「いいでしょ?」
何度言っても、そう呼ぶのをやめないクレールは、ルイーザが何も言わなくなったから、すっかり許しているものと思っているようだ。
だが、ルイーザは欠片も許してなどいなかった。それだけでなくて、ギュスターヴの方も……。
「え? クレールと婚約したい?」
「そうだ。マンディアルグ侯爵家では、養子だからと虐げられていると聞いた。お前も、その1人らしいじゃないか」
「……それ、あの子が言っているの?」
「そうだ」
「……」
クレールは、ギュスターヴと婚約するのに必死になっていたようで、ルイーザはギュスターヴの言葉にイラッとしてしまった。
(いつの間にか、そんなことを言っていたみたいね)
ギュスターヴの両親は、クレールと婚約したいと言うのに猛反対した。でも、ギュスターヴはルイーザみたいな義妹を蔑ろにする令嬢より、クレールみたいな婚約者がいいと言って譲らなかった。
「ルイーザ」
「破棄で構いません」
マンディアルグ侯爵家では、ルイーザが父にそう言うと大喜びしたのは、クレールだった。
マンディアルグ侯爵とバスティアンは、そんなクレールに何とも言えない顔をしていたが、クレールは気にしていなかった。
ギュスターヴの両親も、息子の熱意というか。やりたいことをやるまてやかましいところがあるのを知っていて、せっかくの良縁を不意にするのに呆れた顔をした。
「まぁ、あの娘と婚約するなら、それなりの覚悟があるのだろう。好きにすればいい。ただし、それを撤回しても元には戻らないからな」
「? そんなの当たり前でしょう」
両親をギュスターヴは馬鹿にしたように言っていて、怒る気力もわかないまま、ルイーザとの婚約は破棄となり、すぐさまクレールと婚約することになって、2人は嬉しそうにしていた。
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