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しおりを挟むアンリエットは、ようやくマンディアルグ侯爵家らしくなってきたと言った。
「ルイーザ。これ、よかったら私に預けてくれないかしら?」
「……これを?」
「えぇ、直してもらえるかあたってみるわ」
「っ、」
「元通りにするのは難しいだろうけど。せっかくの思い出の品をこんなままにしておけないわ」
「……直るでしょうか」
呆然として、何度も踏まれてしまった。それを思い出しただけでも悲しくなる。欲しい、欲しいと言いながら、それを大事にしないのだ。そういう風にさせてしまったのはルイーザだが、あんな風に癇癪を起こすとは思いもしなかった。
(それこそ、自業自得って、こういうのを言うのよね)
ルイーザは、そんなことを思いながら壊れた形見を見つめた。
「わからないわ。でも、この色合いより、少し違う色を加えたら、ルイーザにもっと似合うと思うわ。ルイーザのお母様の髪色より、あなたの髪色は明るめだから」
「っ、お母様を知っているの?」
アンリエットは、にっこりと笑った。それは兄に見せる笑顔とも違っていた。
「もちろん。私のお母様ととても仲良しで、私もあなたが赤ちゃんの頃に抱っこさせてもらったことがあるのよ」
「っ、」
「おば様、本当の姉妹みたいだって笑っていたわ。もう1人女の子が欲しいって、出産してすぐに言っていて、お母様が気が早いって言っていたのをよく覚えているわ」
どうやら、ルイーザが姉妹に憧れていたのは、あの光景を見ていたからだけではなかったようだ。
(私が欲しかったのは、本当に欲しかったのは、妹だと思っていたけど、姉妹だったのかも知れないわ)
姉妹を微笑ましそうに見ている母親を羨んでいたことにルイーザはようやく気づいた。そして、アンリエットに抱きしめられながら大泣きした。
アンリエットのことを義姉として認めたのは、こんな会話をした後からだった。
ルイーザは今まで自分がやらかしてきたことが、急に恥ずかしくなった。
変わらなかったのは、クレールだ。
「お義姉様!」
「だから、何度も言わせないで。そう呼ぶなって言ったわよね?」
「っ、そんなの他人行儀すぎるわ!」
「他人でしょ。だから、ルイーザの大切なものすら、新しく買えばいいと言って謝罪1つしないんでしょ。私たちが知るわけないわ」
「っ、煩いわ! 私は、お義姉様に……」
クレールは、ギャンギャンと色々言って来て煩くて仕方がなかったが、話が通じることはなかった。
(困ったわ。あの人が離婚した時に私を選んだのに喜んだりするんじゃなかった)
そんなことを思っても後の祭りでしかなかった。ルイーザは、このままでは自分だけでなくて兄やアンリエットに迷惑をかけると思って、頭を悩ませることになった。
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