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57 ナタリアのその後。
しおりを挟むナタリアは修道女となって、ドニエ国に来ていた。
そこで、スヴェーア国で吉兆を呼ぶとされる色合い近い髪色を持つ女の子を見つけたのだ。それに思わず声が出ていた。
「あっ」
「?」
声に反応して、女の子は立ち止まってナタリアを見上げた。その女の子の容姿が、とある人に似ている気がして懐かしそうにした。
「綺麗ね」
「この髪の色?」
「えぇ、そうよ。私の出身国では、喜ばれる色合いだわ」
「お母様や大叔母様の方が、もっと綺麗よ。私の色合いは、お父様の髪色もまじってるから」
「そうなの。でも、私は、あなたの色合い好きだわ」
「っ、ありがとう! 私も、気に入ってるの!」
そんな話をしていた。そこにシーラが娘を呼びに来て、ナタリアと目が合う。お互いが、学園で会ったことを思い出していた。
「あなたは……」
「っ、」
「お母様! この髪色、好きだって言ってくれたのよ」
「そう。ありがとうございます。私と夫の髪色がまじっていて、中々珍しいですよね」
「えぇ、そうですね。あなたの髪色も、素敵だけど、やっぱり私は娘さんの方が好みです」
「えへへ」
シーラは、娘が嬉しそうにしているのに微笑んでいた。
「ちょっと、何をサボっているの? ……やだ。気持ち悪い」
「っ、」
「……」
シーラたちを見て、後から来た修道女は、そんなことを言ったのだ。娘はシーラの背に隠れてしまった。
「そんな髪で、よく歩けるわね。私なら、恥ずかしく外なんて歩けないわ」
「……」
「失礼なことを言わないでください。今すぐ、お二人に謝ってください」
シーラは、ナタリアがそんなことを言うのに驚いてしまった。明らかに後から来た修道女の方が先輩のようなのに謝罪を要求したのだ。
「は? 何よ。私に口答えしないで」
「口答えではありません」
ナタリアの立場が悪くなるのではないかとシーラは心配になったが、どうしたものかと思っていた。変に庇ってもナタリアが、何かを言われるのだ。
(どうしたものかしらね)
「何を騒いでいるのですか?……あら、侯爵夫人。それに娘さんも、いらしてくださったんですね」
「こ、侯爵!?」
「また、あなたたちですか? ここに来てから二人とも口論ばかりして、一体今度は何のことで喧嘩していたのですか?」
「気持ち悪いって言ったのよ」
修道長は、シーラの娘の言葉に驚いた顔をした。
「え?」
「私やお母様の髪を見て、自分なら恥ずかしく外なんて歩けないって」
「まぁ! なんてことを」
「あ、わ、私は……」
「こっちのお姉さんは、お母様より、私の髪の色が好きって。それに怒ってくれたわ。謝れって言ってくれたのよ」
娘が、そう言うと修道長は頷いてくれた。
「あなたは、色について不勉強すぎてスヴェーア国でもやっていけず、苦情と抗議が多かったと聞いていましたが、ここでも同じことをするとは思いませんでした。こちらの子爵夫人や娘さんは、修道院のボランティアにも熱心で、寄付もしてくださっているのに。謝罪なさい」
「あ、す、すみません!」
「……こちらの方にも、言うことがあるのでは?」
「え? ナタリアに?」
わからないという顔をしているのにシーラは腹が立ってならなかった。
「わからないんですか? 彼女は口答えしたのではなくて、あなたに意見したんですよ。自分が間違っていたと思われたんですよね? なら、何かあるべきでは?」
「あ、その、言い過ぎたわ」
そんなやり取りに修道長は、深いため息をついた。
「あなたが、ここに合わないことがよくわかりました。別のところに行けるように手配します」
「そ、そんな」
修道長は、ここに居させたら、また何かすると思っているようで問題ばかりの修道女を連れて戻ることにしたようだ。シーラに来たばかりのナタリアにボランティアのことを教えてあげてほしいと頼まれて、快く引き受けた。
「先程は、ありがとうございました」
「いえ、修道女が不愉快なことを言って申し訳ありませんでした。あの方、色合いについて、どうにも独特な方で、それがあまりにも酷くて、ついつい言い争ってしまっていたんです」
それを修道長に聞かれて、反りが合わないと思われたのだろう。
「お姉さんにこれからボランティアの時に会えるの?」
「えぇ、そうよ。色々教えてくれる?」
「もちろん!」
シーラの娘は、すっかりナタリアと仲良くなっていた。
それをシーラは、微笑ましそうに見ていた。
「シーラ様、申し訳ありませんでした」
「それは、何の謝罪でしょう?」
「私が、以前にした謝罪は口先だけでした。もう一度謝罪させてください」
「わかりました。謝罪を受けます。これからは、過去のことは全て水に流して、娘共々、仲良くしてくださると嬉しいわ」
ナタリアは、笑顔で頷いていた。
その後、息子の髪色を見て、マティアスの髪色を見て、ナタリアは……。
「凄く素敵な家族ですね。この国では、吉兆を持つ者が多いのですか?」
「いいえ。珍しいわ」
珍しいのに息子と娘が、色を受け継いでいることにナタリアは物凄く驚き、そんな彼女を見て夫妻はにこにことしていた。
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