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王弟の息子である公爵家の令息のゲラーシーと伯爵家の令嬢のナタリアは、婚約破棄することになり、相手のせいにして勘当されることも、修道院へ行くことになることも回避しようとしたが、そんなことを許されることなく二人とも、家の恥だからと追い出されることになった。

あっという間のことだったが、王女が……。


「ここって、こんなに静かなところだったのね」


騒ぎ立てる迷惑な二人がいなくなったことで、王女が開口一番にそんなことを言ったらしい。

周りも、それに内心で同意している者が多かったかも知れないが、その後、彼女はこう続けたのだ。


「やっと、シーラに会えた以外で、こっちに来てよかったと思うことが増えて来たわ」


それに王太子は、王女の隣で自分のことかと目を輝かせていたが……。


「シーラが婚約したのをいの一番にお祝いできたのが、何より嬉しいわ」
「……」


王女の言葉に王太子は沈みかけていた。それにも、周りはだいぶ見慣れてきてしまっているようだ。


「私は、こっちにこのまま残るから、向こうに行くのと入れ違っていたら、留学が終わったら即効で戻っていたところだけど」
「アウギュスタ。それって……」
「こっちのこと、王妃様に教えてもらうのよ。……聞いてないの?」
「……」


王太子は、王妃が黙っていたことを知ったようだ。


(王太子を一喜一憂させられるのは、王女だけじゃないってことね。何だか、ここの王妃殿下と王女は気が合いそうだわ)


何とも言えない顔を王太子はシーラに向けて来たが、見なかったことにした。

マティアスも、同じく助けられそうにないと視線を反らしていた。

シーラとマティアスは、婚約してシーラの留学期間が終わるとマティアスの家で花嫁修業をしつつ、あちらの学園を卒業することになった。

姉と妹も元婚約者もいない学園は静かで、王女と同じことを思ってしまったが、言葉にはしなかった。










シーラがマティアスと結婚した頃には、ヴァジムにも婚約者ができていて、結婚式で会った令嬢は物凄くしっかりした令嬢だったことにホッとしていた。

ヴァジムよりも、義母となるエルヴィーラや侍女長のインガとすっかり意気投合しているようで、ヴァジムは義妹の結婚式に疲れた顔をして現れて、その姿になんだかんだと言われているのをシーラは見ることになり、苦
笑してしまった。


(更に賑やかになったみたいね)


ボリスは、養父としてバージンロードを歩くことに珍しくカチコチに緊張していた。


(私の前で、こんなに緊張したのは初めて見るわ)


だが、始まってしまえば、そんなことを微塵も感じさせることはなかったのは、流石としか言えなかった。

エルヴィーラは、マティアスの母親やその従姉の夫人たちと泣き笑いして、シーラの花嫁姿を見て大喜びしていた。


(ここにお母様がいてくれたら……)


そんなことを思っていたら、マティアスは結婚式を終えてハネムーンに行く前に寄り道をしてくれることになった。


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