上 下
42 / 57

42

しおりを挟む

ゲラーシーは、留学中に色々やっていたことがバレることになったが、そんなことになっていると知らずに父親に手紙で、隣国で身分を知って媚を売っていた無礼な令嬢が侯爵家の養子になって、学園でもまた媚を売り始めて、まいっているとあることないことを書いて出していた。

それを学園でも吹聴して回っていたが信じたのは、ナタリアと呼ばれた令嬢だけであとは白けた顔をして無視されるばかりだった。


「ヴァジム。幼なじみで、友達なんだから、信じてくれるよな?」
「……信じるわけがないだろ。お前にシーラが媚を売ってなんかいないだろ。話しかけてもないじゃないか」
「それは、君が見てない時にしてるんだ」
「そうよ。ヴァジム様、友人なのに疑うんですか? あんまりですわ」


ナタリアは、すっかり騙されていて、ゲラーシーの味方ばかりしていた。


「その見てない時が、どのくらいあると? 大体、シーラが隣国で身分を知って媚を売っていたと言い張るなら、シーラが世話した身分が低くて、つり合わないからと話しかけるなと言った留学生と矛盾するだろ。それに私に散々、よくしてくれたと話してくれたのは、そっちだ。話が変わりすぎてるじゃないか」
「もういい! 見たくなかったよ。あんな義妹にすっかり丸め込まれたんだな」
「あんな? 私の前で、シーラを侮辱しないでくれ。それと私だって、お前の側になんていたくないんだ。だが、父上たちと約束しているんだ。お前から目を離さないとな」


それにゲラーシーは、焦りだしていた。


「ゲラーシー様、あの女の本性、私が突き止めてみせます」
「ナタリア。頼りになるのは、君だけだ」


ナタリアは、ゲラーシーにそんなことを言われて頬を染めていた。

そんなやり取りがあったことなど知らないシーラの周りにナタリアがうろちょろし始めたのは、割と早かった。


「ちょっと、あなた」
「シーラ様、次は移動ですわ。行きましょう」


「ちょっ、まだ、移動するには早いでしょ! 話が……」
「そうそう、私、今日当たりそうなんです。シーラ様、早めに行って教えてくださいませんか?」


そんなこんなで、ナタリアはシーラに話しかけることもできずにいた。


「何なのよ!!」


悔しそうにしながら、置いて行かれるナタリアは廊下で暴れることもあった。


「なんだ?」
「あぁ、ゲラーシーの言葉を信じ切ってる唯一の女子生徒だろ」
「は? あれをよく信じるな」
「そこまでして、婚約したいんだろ」
「……まぁ、あれならお似合いかもな」


そんな風に言われていて、ナタリアは都合よく聞き取っていた。お似合いなのは、自分だと認められていると思っていて、暴走が止まることはなかったのだ。





「しつこいわね」
「本当ですわね」
「あの、皆さん、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「シーラ様が謝ることではありませんわ。元はといえば、この国の者が失礼なことをしたのが始まりですもの。それにナタリアは伯爵令嬢なのに。あの態度は、度が過ぎています」


伯爵令嬢と聞いて、養子になる前なら大変だったろうなと思ってシーラは苦笑してしまった。


(スヴェーア国では、王女が仲良くしてくださっていたから、あの姉と妹がいても何とかなっていたのよね)


王女が忙しくし始めてからは、わざわざ面倒ごとに関わろうとしなかったのだ。喪中なこともあり、揉めたくなかったのも大きかったのだろう。


(あちらは、私がいなくなったことで、もっと羽目を外してそうよね)


そんなことを思っていたが、あちらでは姉妹どころか。父親が再婚していることをこの時のシーラは知りもしなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

愛しいあなたが、婚約破棄を望むなら、私は喜んで受け入れます。不幸せになっても、恨まないでくださいね?

珠宮さくら
ファンタジー
妖精王の孫娘のクリティアは、美しいモノをこよなく愛する妖精。両親の死で心が一度壊れかけてしまい暴走しかけたことが、きっかけで先祖返りして加護の力が、他の妖精よりとても強くなっている。彼女の困ったところは、婚約者となる者に加護を与えすぎてしまうことだ。 そんなこと知らない婚約者のアキントスは、それまで尽くしていたクリティアを捨てて、家柄のいいアンテリナと婚約したいと一方的に破棄をする。 愛している者の望みが破棄を望むならと喜んで別れて、自国へと帰り妖精らしく暮らすことになる。 アキントスは、すっかり加護を失くして、昔の冴えない男へと戻り、何もかもが上手くいかなくなり、不幸へとまっしぐらに突き進んでいく。 ※全5話。予約投稿済。

姉から、兄とその婚約者を守ろうとしただけなのに信用する相手を間違えてしまったようです

珠宮さくら
恋愛
ラファエラ・コンティーニには、何かと色々言ってくる姉がいた。その言い方がいちいち癇に障る感じがあるが、彼女と婚約していた子息たちは、姉と解消してから誰もが素敵な令嬢と婚約して、より婚約者のことを大事にして守ろうとする子息となるため、みんな幸せになっていた。 そんな、ある日、姉妹の兄が婚約することになり、ラファエラは兄とその婚約者の令嬢が、姉によって気分を害さないように配慮しようとしたのだが……。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

婚約者と兄、そして親友だと思っていた令嬢に嫌われていたようですが、運命の人に溺愛されて幸せです

珠宮さくら
恋愛
侯爵家の次女として生まれたエリシュカ・ベンディーク。彼女は見目麗しい家族に囲まれて育ったが、その中で彼女らしさを損なうことなく、実に真っ直ぐに育っていた。 だが、それが気に入らない者も中にはいたようだ。一番身近なところに彼女のことを嫌う者がいたことに彼女だけが、長らく気づいていなかった。 嫌うというのには色々と酷すぎる部分が多々あったが、エリシュカはそれでも彼女らしさを損なうことなく、運命の人と出会うことになり、幸せになっていく。 彼だけでなくて、色んな人たちに溺愛されているのだが、その全てに気づくことは彼女には難しそうだ。

「お前とは婚約破棄する」って本当ですか!?ありがとうございます!今すぐここにサインして下さい!さぁ!

水垣するめ
恋愛
主人公、公爵令嬢のシャーロット・ブロンデはマーク・プリスコット王子と婚約していた。 しかしマークはいつも深く考えずに行動するので、たしなめるためにシャーロットはいつもマークについていなければならなかった。 そして学園の入学式のパーティー。 マークはマナーを逸脱したところをシャーロットに注意され不機嫌になる。 そしてついに長年の不満が爆発し、シャーロットへと暴言をあびせたあと「お前とは婚約破棄する!」と言った。 するとシャーロットは途端にその言葉に目を輝かせ、マークへと詰め寄る。 「婚約破棄してくれるって本当ですか!?」 シャーロットも長年早く婚約破棄したいと思っていたのだ。 しかし王子との婚約なので自分から解消することもできない。 マークのお守りから解放されはシャーロットは自分の好きなままに生きていく。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

処理中です...