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しおりを挟むゲラーシーは、留学中に色々やっていたことがバレることになったが、そんなことになっていると知らずに父親に手紙で、隣国で身分を知って媚を売っていた無礼な令嬢が侯爵家の養子になって、学園でもまた媚を売り始めて、まいっているとあることないことを書いて出していた。
それを学園でも吹聴して回っていたが信じたのは、ナタリアと呼ばれた令嬢だけであとは白けた顔をして無視されるばかりだった。
「ヴァジム。幼なじみで、友達なんだから、信じてくれるよな?」
「……信じるわけがないだろ。お前にシーラが媚を売ってなんかいないだろ。話しかけてもないじゃないか」
「それは、君が見てない時にしてるんだ」
「そうよ。ヴァジム様、友人なのに疑うんですか? あんまりですわ」
ナタリアは、すっかり騙されていて、ゲラーシーの味方ばかりしていた。
「その見てない時が、どのくらいあると? 大体、シーラが隣国で身分を知って媚を売っていたと言い張るなら、シーラが世話した身分が低くて、つり合わないからと話しかけるなと言った留学生と矛盾するだろ。それに私に散々、よくしてくれたと話してくれたのは、そっちだ。話が変わりすぎてるじゃないか」
「もういい! 見たくなかったよ。あんな義妹にすっかり丸め込まれたんだな」
「あんな? 私の前で、シーラを侮辱しないでくれ。それと私だって、お前の側になんていたくないんだ。だが、父上たちと約束しているんだ。お前から目を離さないとな」
それにゲラーシーは、焦りだしていた。
「ゲラーシー様、あの女の本性、私が突き止めてみせます」
「ナタリア。頼りになるのは、君だけだ」
ナタリアは、ゲラーシーにそんなことを言われて頬を染めていた。
そんなやり取りがあったことなど知らないシーラの周りにナタリアがうろちょろし始めたのは、割と早かった。
「ちょっと、あなた」
「シーラ様、次は移動ですわ。行きましょう」
「ちょっ、まだ、移動するには早いでしょ! 話が……」
「そうそう、私、今日当たりそうなんです。シーラ様、早めに行って教えてくださいませんか?」
そんなこんなで、ナタリアはシーラに話しかけることもできずにいた。
「何なのよ!!」
悔しそうにしながら、置いて行かれるナタリアは廊下で暴れることもあった。
「なんだ?」
「あぁ、ゲラーシーの言葉を信じ切ってる唯一の女子生徒だろ」
「は? あれをよく信じるな」
「そこまでして、婚約したいんだろ」
「……まぁ、あれならお似合いかもな」
そんな風に言われていて、ナタリアは都合よく聞き取っていた。お似合いなのは、自分だと認められていると思っていて、暴走が止まることはなかったのだ。
「しつこいわね」
「本当ですわね」
「あの、皆さん、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「シーラ様が謝ることではありませんわ。元はといえば、この国の者が失礼なことをしたのが始まりですもの。それにナタリアは伯爵令嬢なのに。あの態度は、度が過ぎています」
伯爵令嬢と聞いて、養子になる前なら大変だったろうなと思ってシーラは苦笑してしまった。
(スヴェーア国では、王女が仲良くしてくださっていたから、あの姉と妹がいても何とかなっていたのよね)
王女が忙しくし始めてからは、わざわざ面倒ごとに関わろうとしなかったのだ。喪中なこともあり、揉めたくなかったのも大きかったのだろう。
(あちらは、私がいなくなったことで、もっと羽目を外してそうよね)
そんなことを思っていたが、あちらでは姉妹どころか。父親が再婚していることをこの時のシーラは知りもしなかった。
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