上 下
41 / 57

41

しおりを挟む

「でも、君がここの学園に編入したって聞いて、今度は問い合わせが増えてるようだよ」
「え?」


王太子の言葉にシーラは意味がわからなかった。


(何で??)


きょとんとするシーラに王太子は、にこにこと笑顔になった。


「留学したら、君に会えるものね。王女も、君に会いたいから留学する権利を早めてもぎ取るって手紙が来てたよ。私には用はないらしいけど、君に何かあったら、……恐ろしいだろうね」


王太子は、笑顔なはずなのに目は寂しそうにしていた。それこそ、自分のことも気にかけてほしいのだろう。

これだけ、スヴェーア国のことをよく知っているのだ。王女だけが情報源ではないはずだ。王女のことを知りたくて必死なのだろう。


「そういうことだから、彼女にとやかく馬鹿げたことで煩わせないないでくれるかな?」


王太子が、周りに話すとみんな頷いて、失礼しますといなくなって行った。色々と話したのも、シーラが変な誤解をされたままだと都合が悪いからだろう。

残ったのは、ヴァジムとシーラと王太子だけとなった。

ヴァジムも、シーラとその場を後にしようと思っていたが、シーラが思案しているのに気づいて不思議そうにしていた。


(あれ? でも……)


シーラは、首を傾げていた。

それに王太子も、気づいて不思議そうにしていた。


「どうかした?」
「いえ、あの、留学については私は口実だと思います」
「ん?」
「留学生の言葉で苛立ってしまって、王女は留学する準備のために学園の授業にあまり出なくなっていたんです。でも、その準備が思いの外、上手くいってないようで、そっちに集中していて学園には来ておられなかったんですよ」
「……」


それを聞いた王太子は、噛みしめるように嬉しそうな顔をした。


「……彼女、僕に会いにも来てくれるってことか。そうか。嫌われてないようで安心したよ。教えてくれて、ありがとう。でも、うん。聞かなかったことにしとく。知られたら、かなり大変なことになりそうだからね」


シーラは、苦笑していた。ヴァジムは、王太子が婚約者に夢中なことは聞いていたが、ここまでとは思っておらず、インパクトの強すぎる王女の良さがいまいちわかっていなかった。


「手紙を出してあげられないかな? 私より、君からの手紙の方が喜ぶと思うんだ」
「わかりました。王太子殿下によくしていただいて、王女が来てくださるのを心待ちにしていると書いておきます」
「うん。それはいいね。留学生のことは、オブラートに包んでおいて」
「その辺は、来てからオブラートに話します。私の知ってる留学生と皆さんが知ってる留学生は、違うようなので」


王太子は、それを聞いて微笑んでいた。


「ヴァジム」
「はい」
「このことは、私は両親や叔父上に話しておくから、君のご両親にはきちんと伝えておいて」
「わかっています。幼なじみ同士の男の友情より、義妹になった家族を守ります。まぁ、友情があったかは、疑問ですが」
「そうか。守るべき相手を見つけると変わるものだね。それこそ、婚約者ができても、義妹の味方ばかりして、婚約者に愛想を尽かされないようにしないとどちらにも嫌われかねないよ」


嫌われると聞いて、シーラをバッ!と振り返った。


「うん。私が言うのも何だけど、程々にしときなよ」


シーラは、どんな表情をするのが正解なのかがわからなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

婚約者の妹が結婚式に乗り込んで来たのですが〜どうやら、私の婚約者は妹と浮気していたようです〜

あーもんど
恋愛
結婚式の途中……誓いのキスをする直前で、見知らぬ女性が会場に乗り込んできた。 そして、その女性は『そこの芋女!さっさと“お兄様”から、離れなさい!ブスのくせにお兄様と結婚しようだなんて、図々しいにも程があるわ!』と私を罵り、 『それに私達は体の相性も抜群なんだから!』とまさかの浮気を暴露! そして、結婚式は中止。婚約ももちろん破談。 ────婚約者様、お覚悟よろしいですね? ※本作はメモの中に眠っていた作品をリメイクしたものです。クオリティは高くありません。 ※第二章から人が死ぬ描写がありますので閲覧注意です。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

処理中です...