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しおりを挟むボリスは、そんな二人を微笑ましそうに見ていたが、ヴァジムはその輪に入れずにしょぼくれていた。
「お義兄様」
「な、なんだ?」
そう呼ばれたことにヴァジムは慣れていないが、嬉しそうにシーラを見た。
「上手にできるように頑張りますね。でも、難しくて、うまくできたことはあんまりないんです。ちょっと失敗するかも知れませんが、食べてくれますか?」
「もちろん、食べるよ。シーラが、頑張って作ったものなら、何でも食べる」
それを聞いて、ボリスは息子が羨ましくなった。シーラの名前を思わず呼んでいた。
「……シーラ」
「お養父様、お菓子はお好きですか?」
「……甘すぎなければ」
「甘くないもの。……ちょっとアレンジすればできると思います」
「……たくさんは無理だが甘くとも少しなら食べるぞ」
それこそ、失敗したと嘆く妻の悲しむ姿に焦げたものや生焼けなものでも、昔は食した男だ。可愛い義娘の手作りを残すことはないだろう。
一度、上手くできたと喜んでいたが、あれは砂糖と塩を間違えたもので、エルヴィーラはやっと懐かしい味を完璧に再現できたと食べて、その酷さに悶絶してから作ってはいないのだ。それもこれも、ボリスには懐かしい思い出となっていた。
インガは、それをよく覚えていて、何とも言えない表情をしていた。だが、二人が楽しそうにしているのに水をさせないと思ったのか。ボリスに失敗したとき用に胃薬を用意しておくと目だけで合図してきたのに小さく頷いておいた。
その胃薬のおかげで、何とかなったのだ。今回も、何とかなるだろう。
「ふふっ、そうと決まったら買い物をしなくてはね。シーラ、出かけましょう」
エルヴィーラは、夫と侍女長が、無言のまま会話していることに全く気づかないまま、そんなことを言った。
その日からシーラは勉強だけで、1日中部屋に引きこもることはなくなった。
ピクニックも、お菓子作りも、料理も、シーラは楽しくて仕方がなかった。
少し前に捻った足も、すっかり良くなっていたが、引きこもっていたせいで体力がだいぶ落ちていた。
(アルヴァとリネーアは、お菓子を食べてばかりで作るなんてしたことなかったのよね。それどころか、自分が作ったって嘘までついて、お姉様なんて婚約者に食べさせてすらいたみたいだし。もっとも、彼は私にお礼を言ってくれてたから、バレバレだったんだけど。それにも、気づいていなかったのよね)
ピクニック以外でも、シーラのためにと庭に彼女の好きな花を植えてくれたと知って、ガーデンパーティーをしたりとシーラは養子先で笑顔が増えることになった。
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