上 下
27 / 57

27

しおりを挟む

シーラは、長期休暇でこの家の一人息子が学園の寮から戻って来る前に屋敷のことやら、この辺のことやらをざっくり説明を終えるやいなや色々と勉強をしていた。

ボリスに頼み込んで家庭教師をつけてもらったのだ。

シーラの熱心さに感心したボリスは、すぐに優秀な家庭教師をつけてくれたが、全教科を見てもらいたがっていたことまでは気づかなかった。


「シーラ。そんなに無理することはないわ」
「……」


エルヴィーラは、必死になって勉強している姿を心配して、何かと声をかけていた。

言葉にしてはいないがボリスも、この屋敷の者たちみんなが同じことを思っていた。

シーラが習っているよりも、この国の勉強は特殊だったのだ。長期休暇があけたら編入することになって、まだまだ余裕があるように見えて、最初が肝心だと思い、必死になりすぎていて周りが見えていなかった。

シーラの通っていた学園は、留学生にも編入生にも、最初の試験が肝心なのだ。そのため、ここでもそうなのだと思って必死になっていたのだ。


「……聞こえていないな」
「そうみたいね。困ったわ」
「……あいつが帰って来たら、気晴らしに外に連れ出させては、どうだ?」
「そうね。同じ年くらいの女の子を案内して喜ばせるくらいはできるといいけれど」
「……」


エルヴィーラの言葉にボリスは、遠い目をして懐かしむような顔をしていた。なぜ、そんな顔をしているかといえとエルヴィーラは、女性が喜びそうなところではあまり喜ばなかったのだ。


「こういうところは、妹とか友達が来たら喜びそうですけど、私は女の子っぽいところは、どうも苦手」
「……」
「他にないのですか?」
「……私の好きなところでもいいか?」
「えぇ!」


それよりも、ボリスが好むような場所に連れて行く方がいきいきとしていた。それを思い出して微笑んだ。同じところで喜んでいたが、見えていたものは色々違っていて、それを話すのが何より楽しかったのだ。

女性と過ごして、時間があんなにあっという間にすぎるのは、エルヴィーラといる時くらいだった。


「旦那様?」
「いや、何でもない」


だが、エルヴィーラにも、ボリスにも似ていない息子が、それ以前にとんでもない勘違いをしているとは思ってもみなかったが、どこに連れ出そうとするのやらと思って、少しばかり興味がわいていた。


「勉強熱心なのは、よくわかりました。きちんと食べてくれているし、睡眠時間も取ってくださっているようですが、あのまま寮生活になるのは心配でなりませんよ」


インガの言葉にエルヴィーラは大きく頷いていた。ボリスも、息子だけでは、あの状態のまま寮生活になっては、身体を壊すのが目に見えている。

だからといって、修道院に入るように言われて追い出されそうになっていたシーラを売り言葉に買い言葉で養子にしたのには悔いはない。

だが、喪が明けるまでは、どうにかなったらよかったところではあったのだ。

それに子爵令嬢が、養子になって侯爵令嬢になったのだ。その辺も気にしているのかも知れない、

どれを気にしているのか。全部なのかと聞くに聞けないのだ。

それが、そもそも、学園のカリキュラムがスヴェーア国の中でも一番厳しくなっているところにシーラが通っていたことをボリスも、エルヴィーラですら知らなかったのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

姉から、兄とその婚約者を守ろうとしただけなのに信用する相手を間違えてしまったようです

珠宮さくら
恋愛
ラファエラ・コンティーニには、何かと色々言ってくる姉がいた。その言い方がいちいち癇に障る感じがあるが、彼女と婚約していた子息たちは、姉と解消してから誰もが素敵な令嬢と婚約して、より婚約者のことを大事にして守ろうとする子息となるため、みんな幸せになっていた。 そんな、ある日、姉妹の兄が婚約することになり、ラファエラは兄とその婚約者の令嬢が、姉によって気分を害さないように配慮しようとしたのだが……。

愛しいあなたが、婚約破棄を望むなら、私は喜んで受け入れます。不幸せになっても、恨まないでくださいね?

珠宮さくら
ファンタジー
妖精王の孫娘のクリティアは、美しいモノをこよなく愛する妖精。両親の死で心が一度壊れかけてしまい暴走しかけたことが、きっかけで先祖返りして加護の力が、他の妖精よりとても強くなっている。彼女の困ったところは、婚約者となる者に加護を与えすぎてしまうことだ。 そんなこと知らない婚約者のアキントスは、それまで尽くしていたクリティアを捨てて、家柄のいいアンテリナと婚約したいと一方的に破棄をする。 愛している者の望みが破棄を望むならと喜んで別れて、自国へと帰り妖精らしく暮らすことになる。 アキントスは、すっかり加護を失くして、昔の冴えない男へと戻り、何もかもが上手くいかなくなり、不幸へとまっしぐらに突き進んでいく。 ※全5話。予約投稿済。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

婚約者と兄、そして親友だと思っていた令嬢に嫌われていたようですが、運命の人に溺愛されて幸せです

珠宮さくら
恋愛
侯爵家の次女として生まれたエリシュカ・ベンディーク。彼女は見目麗しい家族に囲まれて育ったが、その中で彼女らしさを損なうことなく、実に真っ直ぐに育っていた。 だが、それが気に入らない者も中にはいたようだ。一番身近なところに彼女のことを嫌う者がいたことに彼女だけが、長らく気づいていなかった。 嫌うというのには色々と酷すぎる部分が多々あったが、エリシュカはそれでも彼女らしさを損なうことなく、運命の人と出会うことになり、幸せになっていく。 彼だけでなくて、色んな人たちに溺愛されているのだが、その全てに気づくことは彼女には難しそうだ。

「お前とは婚約破棄する」って本当ですか!?ありがとうございます!今すぐここにサインして下さい!さぁ!

水垣するめ
恋愛
主人公、公爵令嬢のシャーロット・ブロンデはマーク・プリスコット王子と婚約していた。 しかしマークはいつも深く考えずに行動するので、たしなめるためにシャーロットはいつもマークについていなければならなかった。 そして学園の入学式のパーティー。 マークはマナーを逸脱したところをシャーロットに注意され不機嫌になる。 そしてついに長年の不満が爆発し、シャーロットへと暴言をあびせたあと「お前とは婚約破棄する!」と言った。 するとシャーロットは途端にその言葉に目を輝かせ、マークへと詰め寄る。 「婚約破棄してくれるって本当ですか!?」 シャーロットも長年早く婚約破棄したいと思っていたのだ。 しかし王子との婚約なので自分から解消することもできない。 マークのお守りから解放されはシャーロットは自分の好きなままに生きていく。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

処理中です...