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しおりを挟む「……」
「ゲラーシー? どうかしたか?」
最近、何かとそわそわしている幼なじみであり、公爵家の子息で王弟の息子でもあるゲラーシー・ヴィトゲンシュタインを見ていたヴァジムは、怪訝な顔をしていた。
ヴァジム・バシュキルツェフは、侯爵家の一人息子だった。彼の両親は、ボリスとエルヴィーラだ。二人共、見た目は中々に美形なのだが、婚約者はいなかった。
エルヴィーラは中身がどちらにも似ていないといい、似た人物のことでボリスが遠い目をする息子が彼だ。彼の中身は、ボリスの父親であり、彼の祖父にそっくりだった。勘違いをしまくって、早々に隠居させるしかないほど、酷かったのだ。実の息子が、同じようなことをし続けるなら、将来のために色々と考えなくてはならなくなるため、婚約者を慎重に選ぶことに気を配っていて、婚約者がいなかった。
ゲラーシーの方は、それよりも更に酷いところがあって婚約者が決まらないのだが、そのことに幼なじみのヴァジムは気づいていないようだ。
だからこそ、二人は未だに友達のようにしていられるのだ。ヴァジムが、ゲラーシーの本性に気づいても、幼なじみを擁護するようなら、侯爵家の未来は前途多難でしかないだろう。
「彼女の婚約が破棄になった」
「彼女……? それって、お前が留学している間によくしてくれてたっていう令嬢のことか?」
「あぁ、……早く戻って来るんじゃなかった」
こんな早く、自分が動く前に婚約が破棄になるとはゲラーシーは思っていなかったのだ。彼女の喪が明けたら、どうにかして婚約を解消させて、自分が彼女と婚約することを目論んでいて、留学なんてしていられないとさっさと切り上げて、準備をしなくてはと戻って来ていたのだ。
それが、あっという間に婚約破棄となったという知らせが届いたのだ。その婚約者が、彼女の妹になったのだ。何かあったに違いない。
そんなことを思ってゲラーシーは、彼女とどうにかして婚約したくて頑張っていたのに全てが台無しになりそうだと頭を抱えたくなっていた。
それをぼんやりとはしょって聞いていたヴァジムは、眉を顰めていた。ゲラーシーから話を聞いてはいたが、喪が明けずに色々と大変な時期に婚約破棄になっただけでなくて、妹の方と元婚約者が婚約するくらいなら、ゲラーシーの思っているような令嬢ではないではないかと思えてならなかったのだ。
それこそ、すぐに婚約者を変えねばならないからこそではなかろうか。そんなのに関わらない方がいいに決まっている。
それこそ、ヴァジムの頭の中ではとんでもなく厄介な令嬢が出来上がっていた。
それが、従妹のことで、義妹となる令嬢のことだとはこの時は思っていなかったが、それがわかってからのヴァジムは、勘違いしたまま色眼鏡からしかシーラを見ることになった。
そんな勘違いをヴァジムがしているとゲラーシーは気づくこともなく、この国の侯爵家の養子になっていることに彼が気づくのも遅くなってしまい、シーラを怒らせるようなことを広めていたせいで、印象は最悪なものになった。
もっとも、ヴァジムがはしょって聞いていたにしろ。幼なじみが、婚約者のいる相手の婚約を解消させて、自分が婚約したいからと画策していたのだ。
それに対して何を考えているんだと思うところだが、ヴァジムはこの調子なせいでゲラーシーを誤解したまま、友達を続けていた。
そのため、ヴァジムに曝け出したところで問題ないと思っているゲラーシーのぶっちゃけぶりは、いつもいつも酷かった。
まぁ、どちらも酷いせいで、未だに婚約者がいないわけだが、この二人はそのことにすら気づいていなかった。
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