上 下
22 / 57

22

しおりを挟む

「それとシーラ。いい加減にしろ。お前のやることなすことで、どれだけ私が迷惑しているのかが、わからないのか? お前のそういうところが、母親にそっくりで腹ただしいんだ。婚約が破棄になって、どうせ他に嫁ぐこともできそうにないんだ。家のために修道院にでも、さっさと入れ。そのくらい、思いついてもいいだろうが」
「っ、」 


父の言葉にそんな風に思われていたのかとシーラは驚いてしまった。

だが、即座に反応したのはエルヴィーラだった。


「修道院ですって?! シーラをそんなところにいれようだなんて、信じられないわ。なら、私の家の養子にするわ」
「伯母様」
「はっ、勝手にしろ」


売り言葉に買い言葉とは、このことではなかろうか。

エルヴィーラは、腹立つ男を睨みつけてからシーラを見た。


「シーラ。この家にいたい?」


エルヴィーラの言葉にシーラは、首を横に振った。いたいなんて思うわけがない。居場所なんて、はなから残されていないのだ。


「養子になってくれる?」


シーラが頷くのを見て、エルヴィーラはニッコリと笑った。


「すぐに旦那様に手紙を出すわ」
「そいつを養子にしたいなら、書類なんて後でいい。さっさと連れて行け。目障りだ」
「……シーラ。荷造りしてくれる?」
「わかりました」


アルヴァとリネーアは、侯爵家の養子になるチャンスだと思ったのか。エルヴィーラに色々言っていたが、エルヴィーラは無視していた。

シーラの荷造りは、あっさりとしたものだった。


「……それだけなの?」
「他に思い入れはないので」
「……」


姉と妹に壊され、隠されしていて、持ち物なんて大したものがなかったのだ。


「そう。じゃあ、行きましょう」


シーラは、父や姉妹に挨拶するも、3人ともシーラにさっさと出て行けと言わんばかりの態度だった。

アルヴァとリネーアも、媚を売るのに失敗してエルヴィーラに気に入られたシーラを無視していた。父親に嫌われたら、好きなものを買ってもらえなくなるから、わざわざそんなことをしたくないのだろう。


(まさか、こんな風にこの家を出て行くことになるとは思わなかったわ)







馬車で、移動して元々エルヴィーラが手配していた宿屋に泊まることになったシーラ。そんなことになったことをエルヴィーラは謝罪してきた。


「伯母様が謝ることではありません」
「どうにも我慢ならなかったのよ。私のことを気に入らないなら、まだ我慢できたけど、あなたにまであんな態度を取っているのを見たら……」


エルヴィーラは、母も同じように扱われていたと思ったようだ。


「それにしても、私だけでなくて、妹も、あなたのことも気に入らないなんて、あの男は常識がない自分と似てないのを僻んでるのかしらね」
「……」


シーラは、それを聞いて何とも言えない顔をしてしまった。


(それなのに自分は常識人だと思っているとしたら……)


「滑稽ね」
「っ、」


エルヴィーラと同じことを思っていたようだ。シーラは、吹き出しそうになってしまった。


「あ、ごめんなさいね。あなたのお父様なのに」
「いえ、私も、同じことを思っていたので」
「あら、そうなの。あなたの姉妹も、あの男にそっくりなようね」
「えぇ、とてもよく似ています」
「それじゃあ、いらぬ苦労をしてきたわね」


物凄く同情的な目をエルヴィーラから向けられてシーラは苦笑するしかできなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

婚約者の妹が結婚式に乗り込んで来たのですが〜どうやら、私の婚約者は妹と浮気していたようです〜

あーもんど
恋愛
結婚式の途中……誓いのキスをする直前で、見知らぬ女性が会場に乗り込んできた。 そして、その女性は『そこの芋女!さっさと“お兄様”から、離れなさい!ブスのくせにお兄様と結婚しようだなんて、図々しいにも程があるわ!』と私を罵り、 『それに私達は体の相性も抜群なんだから!』とまさかの浮気を暴露! そして、結婚式は中止。婚約ももちろん破談。 ────婚約者様、お覚悟よろしいですね? ※本作はメモの中に眠っていた作品をリメイクしたものです。クオリティは高くありません。 ※第二章から人が死ぬ描写がありますので閲覧注意です。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結】婚約者を寝取られた公爵令嬢は今更謝っても遅い、と背を向ける

高瀬船
恋愛
公爵令嬢、エレフィナ・ハフディアーノは目の前で自分の婚約者であり、この国の第二王子であるコンラット・フォン・イビルシスと、伯爵令嬢であるラビナ・ビビットが熱く口付け合っているその場面を見てしまった。 幼少時に婚約を結んだこの国の第二王子と公爵令嬢のエレフィナは昔から反りが合わない。 愛も情もないその関係に辟易としていたが、国のために彼に嫁ごう、国のため彼を支えて行こうと思っていたが、学園に入ってから3年目。 ラビナ・ビビットに全てを奪われる。 ※初回から婚約者が他の令嬢と体の関係を持っています、ご注意下さい。 コメントにてご指摘ありがとうございます!あらすじの「婚約」が「婚姻」になっておりました…!編集し直させて頂いております。 誤字脱字報告もありがとうございます!

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

処理中です...