上 下
2 / 57

しおりを挟む

シーラは、幼い頃から母から伯母のことを聞かされていて、とても優しい方なのだと思っていた。

いつか会いたいと思っていたが、母が亡くなったことで会いたかったわけではなかった。

でも、伯母はそのお葬式に姿をみせてはくれなかったのだ。


(お母様のお葬式に来てもくれなかった)


母の葬式で、伯母に会えると思っていた。でも、来なかったのだ。それにシーラは、物凄くショックを受けてしまった。手紙も、花すら届かなかった。駆けつけられずとも、手紙や花くらいは届くものと思っていたが何もなかったのだ。

シーラが通う学園の生徒たちも大勢が葬儀に来てくれていた。その中に学生服ではなく、しっかりした喪服で現れた留学生もいたが、来てくれたのだからととやかくシーラが思うことはなかった。

その前に彼が、とある方を侮辱したり、他の令嬢たちにも同じことをしたりしていたが、そんな方とできれば関わりたくなかった。でも、先生に頼まれたのと留学生のお世話係として仕事をしなくてはならなくて、シーラは困っている時に彼に数回話しかけた程度でしかなかった。

なのに留学生が、あつらえた喪服で現れたことで色々と言われることにはなったが、彼は三姉妹が学園に再び通うようになった頃には、留学を切り上げて帰国してしまっていて、なぜ、あんな風にきっちりとしすぎた格好で参列したかはわからずじまいだった。

それよりも、シーラは伯母が現れることを心待ちにしていたが、結局きてくれなかったのだ。

シーラの父は、それ以外に妻の姉からの花もないことに何も言うこともせず、まるで何のリアクションも期待していないかのようにしていた。

シーラが、ショックを受けていることは、他にもあった。


「今日から普通にしていいぞ」
「え?」


父が、娘たちにそんなことを言ったのだ。母が亡くなってまだ数日なのに喪に服す格好をしなくてもいいと言ったのにシーラは、驚いていた。

この世界で、喪に服す期間は最低でも半年なのだ。それでも、病気で亡くなった最愛の人や両親などへの深い悲しみを表す人たちは、13ヶ月は喪中として地味な色を着て過ごす。

隣国では、その色合いにも明確な細かい決め事があるが、この国でもきちんとした喪中の過ごし方は古くからあった。


(何を言っているの……?)


それなのにあっさりと普通にしていいと言うのだ。驚きすぎて、父にどういうことかを聞く前にいつものように用は済んだとばかりに部屋からいなくなってしまった。

するとシーラと姉のアルヴァと妹リネーアは……。


「やった! この服、ダサいし、婚約者と出かけると目立つから嫌だったのよね」
「友達が、流行りの服を着てるのにこんな服着て出かけたら、恥ずかしくて仕方がなかったからよかったわ」
「……」


喪に服すことを姉と妹は、やめられることを素直に喜んでいた。

それをシーラは、複雑な顔をして聞いていた。そんなシーラを見て、姉と妹は……。


「何よ。シーラ、あなただって、そう思ってるんでしょ?」
「二人共、お母様が亡くなって数日なのよ? それなのに普通だなんて……」
「お父様が、そうしていいって言ってるのよ。それに逆らうつもりなの?」
「逆らうとかの問題じゃないわ」
「何、それ。いつも、シーラはそうよね。いい子ぶってればいいわ」
「っ、」


(いい子ぶるって何? お母様が亡くなったのにお姉様も、リネーアも、お父様も、悲しくないの?)


それに伯母も、そうだ。シーラは、誰も母の死を悲しんでいない気がして、夜になると泣いてばかりいた。

喪中の期間の地味な格好は、最愛な人を亡くして深く悲しんでいて、新しい流行りの服を喪中の間に購入することも、全く悲しんではいないことを表すから、この期間に服のことを気にする姉妹に理解ができなかった。


(こんなのってないわ。あんまりよ!)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

婚約者の妹が結婚式に乗り込んで来たのですが〜どうやら、私の婚約者は妹と浮気していたようです〜

あーもんど
恋愛
結婚式の途中……誓いのキスをする直前で、見知らぬ女性が会場に乗り込んできた。 そして、その女性は『そこの芋女!さっさと“お兄様”から、離れなさい!ブスのくせにお兄様と結婚しようだなんて、図々しいにも程があるわ!』と私を罵り、 『それに私達は体の相性も抜群なんだから!』とまさかの浮気を暴露! そして、結婚式は中止。婚約ももちろん破談。 ────婚約者様、お覚悟よろしいですね? ※本作はメモの中に眠っていた作品をリメイクしたものです。クオリティは高くありません。 ※第二章から人が死ぬ描写がありますので閲覧注意です。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結】婚約者を寝取られた公爵令嬢は今更謝っても遅い、と背を向ける

高瀬船
恋愛
公爵令嬢、エレフィナ・ハフディアーノは目の前で自分の婚約者であり、この国の第二王子であるコンラット・フォン・イビルシスと、伯爵令嬢であるラビナ・ビビットが熱く口付け合っているその場面を見てしまった。 幼少時に婚約を結んだこの国の第二王子と公爵令嬢のエレフィナは昔から反りが合わない。 愛も情もないその関係に辟易としていたが、国のために彼に嫁ごう、国のため彼を支えて行こうと思っていたが、学園に入ってから3年目。 ラビナ・ビビットに全てを奪われる。 ※初回から婚約者が他の令嬢と体の関係を持っています、ご注意下さい。 コメントにてご指摘ありがとうございます!あらすじの「婚約」が「婚姻」になっておりました…!編集し直させて頂いております。 誤字脱字報告もありがとうございます!

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

処理中です...