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しおりを挟むスヴェーア国。その国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、幼い頃からよく母親に髪を梳かれながら、色んな話を聞かせてもらっていた。
母には、他にも二人の娘がいたが、シーラを何かと可愛がってくれていて、そんな風に話をたくさん聞いていたのは、三姉妹でシーラだけだった。
母は自分とは全く似ていないシーラの髪の色がお気に入りだった。その髪色は、母の思い入れのある人に似ていたようで、にこにこしながら懐かしそうにしていた。
スヴェーア国でも、シーラに似たような髪色を見たことは滅多になかった。
「あなたは、お姉様によく似ているわ」
「お母様のお姉様のこと?」
「そうよ。隣国に嫁いで行ってしまって、長らく会えていないけれど。本当は、私が嫁ぐはずだったの。旦那様とは、お姉様が婚約して結婚するはずだったのよ」
それを聞いていた幼いシーラは、母の言葉に目を輝かせていた。そこまでして、嫁ぎたくないのはきっと……。
「お父様のことが好きだったのね!」
それが、正解だとシーラは信じて疑っていなかったが、シーラを見て母は困った顔をしていた。
「……ちょっと、違うわ」
「違う……?」
母の困り顔にシーラは、目をパチクリして首を傾げた。
「嫁ぐはずだった方が、その、とても怖い方って聞いていたのよ。そういう噂があって、誰も婚約したがっていなかったの。それが、私が婚約してはどうかってなってしまって、私、昔から怖いものが苦手なのよ。だから、怖い人のところには嫁ぎたくないって泣いていたの。それに隣国に嫁いだら、友達とも離れなきゃならなくなるから、それも嫌だったのよ。そうしたら、お姉様が“なら、私が代わってあげる。だから、もう泣かないって約束して”って言ってくれたの」
それを母は思い出したのか、懐かしそうにしていた。
シーラは怖い人と聞いて、眉を顰めていた。
「私も、怖いのは、嫌い。お母様のお姉様は、怖いものが得意だったのね!」
「ううん。私より、駄目な人だったわ。それにうんと寂しがり屋だった。でも、代わってくれたのよ」
姉として、泣きじゃくる妹をそんなところに嫁がせたくなかったのだろう。自分の方が怖がりなのに友達とだって離れたくなかっただろうが、そんなことを言ったのだ。
そんな姉に半信半疑だったようだが、本当に代わってくれたことに母は感激したようだ。だから、姉が向こうに行くまでに姉が喜んでくれることを何でもやったようだ。
シーラは、そんな母の姉に感激していた。自分だったら、姉や妹が泣きじゃくって嫌がることを自分も苦手なのに友達とも離れなきゃならないのに代わってあげられる自信なんてなかった。
「あなたの髪をこうして梳かしていると思い出すわ。あなたの髪色は、私のお姉様にそっくりなのよ。私は、昔から羨ましくて仕方がなかったわ」
「でも、私、お母様やお姉様たちと同じ色がよかったわ。私だけ違うから、みんなして姉妹だって気づいてくれないんだもの」
シーラは、それに悩んでいた。父とも、髪色も質も家族で一人だけ違うのだ。
「そうね。でも、この髪色は珍しいから、お姉様も、あなたも出会ったらすぐにわかるわ。昔は、この髪色を祖母が……、あなたの曾祖母や他にもいたのだけどね。受け継いで生まれてくることが少なくなってしまった。隣国のドニエ国では、縁起のいい色合いだと喜ばれるそうよ。喪に服す時は、その髪色を隠すようにウィッグをつけたり、ベールをつけて隠したりすると聞いたことがあるわ」
母が、そんなことを話してくれるのは、シーラだけだった。姉も、妹も、昔話になんて興味なかった。
病気で伏せるようになってからは、髪を梳かすのは、シーラが母にしてあげられる唯一のことになっていた。
段々と弱っていく母に対しても、シーラ以外の家族は冷たいものだった。父は、母の部屋にすら行くことなく、姉と妹が母に強請る時くらいしか会おうとはしなかった。
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