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しおりを挟むチャンダ男爵家の面々が夜逃げをしたことで、支払いを肩代わりすることになったのは、パタルカール伯爵家だった。
「お前が払え!」
「な、何でですか!?」
「お前が、あの令嬢と婚約したいと言わなければ、こんなことにならなかったんだ!」
「そうね。大体、名前を聞き間違えたのが、あり得ないわ」
「そんな、あんまりです!!」
だが、ダルシャンに両親は責任をなすりつけた。酷いとしか言いようがないが、他人の迷惑が全くわからないのは、親子揃ってそっくりだった。
この頃には、学園でダルシャンは女子生徒にをストーカーしている要注意人物となっていた。元より友達の1人もいなかったのもあり、ディルフィニアと婚約したのも普通なら、何でそっちと?と言われてもおかしくなかったのだが、誰も彼にその話をしなかったのだ。
そのせいで、こんなことになったようなものだが、ダルシャンはこんな家でやっていけるかと家を出たのは、すぐだった。
パタルカール伯爵家では息子に責任をなすりつけようとしたが上手くいかずにそれまで溜め込んできたもので支払うことになり、パタルカール伯爵夫妻はいつ見かけても喧嘩ばかりしているようになった。
そう、支払おうと思えば支払えたのだが、したくなかっただけなのだ。それで、息子が出て行ってしまったのだが、それすら相手のせいにして、こんなことになったのも、相手のせいだと喧嘩していた。
「また、いるわね」
「こんなところに来てまで、喧嘩することないのに」
「こんなところも何も、あの2人は顔を合わせるとあぁらしいわよ」
「何、それ。場所なんて関係ないのね」
「なんて迷惑なのかしら」
パーティーに呼んでも喧嘩していた。そのため、パタルカール伯爵家を呼ぶのを控える者たちが増えた。
そのうち、お茶会や他のことでも呼ばなくなり、そうなると益々喧嘩がヒートアップすることになり、離婚することになったようだが、大した話題にもならなかった。
そんなことが続いていたが……。
「そういえば、最近、静かね」
「パタルカール伯爵家の方々が、離婚したからでは?」
「あら、やっと離婚したの。それで、こんなに静かになるとは、どれほど煩かったのかしらね」
静かになったと話題になったが、離婚した先のことに誰も興味はなかった。
「それより、カシシャ様。ラジェスでのことを聞かせてくださいな」
ネヘラ公爵家のお茶会で、留学から戻って来たカシシャに話をせがんだ。
「お姉様。ヴァリャ様は、お元気なのですよね?」
ヴァリャの話題を妹から聞かれて、カシシャは嬉しそうに笑顔になった。
「えぇ、あちらに着いてから、しばらく具合が良くなかったけれど、私が戻って来る頃には、とても元気になっていたわ。ラジェスの本を読み尽くしてしまって、別の国に留学できないかと悩んでいたくらいよ」
「まぁ! あの国が、一番取り扱っている本が多いのにもう網羅されたのね」
ヴァリャは、暇さえあれば図書館で本を読んでいた。それを翻訳していた。ヴァリャの母親が翻訳の仕事をしていたため、ヴァリャも語学が堪能なところがあった。それを活かして、翻訳をしたのを貯めていたのだ。
「えぇ、でも、留学は難しいでしょうね」
「なぜですか?」
「留学して本を読むより、何でも取り寄せてやるから、側にいてくれって言われていたからよ」
カシシャの言葉に夫人たちも、カシシャの妹や令嬢たちもキャーキャー騒いでいた。誰とは言わなかったが、何でも取り寄せられると言うなら、それなりの方のはずだ。
それを聞いて、どんな方なのかと聞きたがったが、カシシャが話すことはなかった。
「知りたかったら、留学するといいわ」
「留学。お姉様、私にもできるでしょうか」
「……そんなに気になるの?」
妹が真剣に悩むのにそこまでミーハーだったのかと驚いていた。
「ヴァリャお姉様に私も、お会いしたいんです。お戻りになると思っていたので」
まさか、留学して、そのまま養子になるとは思わなかったのだ。
「私も、お会いしたいわ。ヴァリャ様のすすめてくださった本のお話がしたいわ」
「あら、本の話題なら、手紙出なさればよいわ。それより、あちらに留学するなら、恋バナをしたいわ」
令嬢たちは、勉強を頑張ろうとしていた。夫人たちは……。
「私たちには、留学は難しいわ。学生時代が懐かしいわ」
「本当ね」
「あら、行く方法なら、留学以外にも旅行があるわ」
夫人たちは、そんな話で盛り上がっていた。もはやヴァリャに会いたいのか。出歯亀をしたいだけなのかがわからなくなったが、楽しそうだった。
この国でも、他の国でも、ヴァリャが調べあげたことで画期的な薬ができて、あの病で苦しい思いをする者は激減した。
それを知っている者たちは、みんなヴァリャに感謝していた。母親を助けたいと調べ上げてくれたが、その母を失ってもなお、他の人々が救われることを望んだ令嬢のおかげだと周りに思われていたが、当の本人は元気に回復する人たちが増えたことを喜んでいるだけで、自分が何をしたかなんて気にしていなかった。
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