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しおりを挟むそんなことをしているとも知らず、息子があの薬を見つけた令嬢と仲良くしているものと思っていたパタルカール伯爵は、見たことない額の請求書の山が届いて絶句したのは、すぐのことだった。
すぐに妻と息子を呼びつけるも、2人ではなかった。よくよく聞けば、男爵令嬢とその母親が散財していたとわかったのだ。
「はぁ? 何で、母親まで散財したのが、こちらに請求が来るんだ!?」
「しかも、何を買ったら、こんな額になるのよ」
パタルカール伯爵夫妻は、こんなもの払えるかと騒いでいたが、金のなる木だ。機嫌を損ねたら大変だとばかりにした。
「ダルシャン! お前が、機嫌を取っているのではないのか?!」
「っ、いえ、それが……」
「何だ?」
言い淀む息子をイライラしていた。
「その、人違いだったようでして……」
「「は?」」
「私が、見た令嬢ではなかったんです。私より、年下で、成金みたいな令嬢だったので、そんなのを連れ歩くなんて恥ずかしくて……」
「成金みたいな令嬢……?」
「まさか、あそこの令嬢は、慎ましやかで母親の病を治そうとしていたはずよ」
それを聞いて、ダルシャンはきょとんとした。
「母親でしたら、元気にしてましたよ」
「それは、後妻よ。前妻が病にふしている間に浮気していて……、っ、まさか」
「そうだ。あそこには厄介なのが、後妻に入ったのだったな。チャンダ男爵のやつ、出来の悪い方を自慢したな」
「え? 出来の悪い方??」
まぁ、そんなこんなでようやく人違いだとわかったのと公爵夫人に嘘をつかれたわけではない。名前ではなく、男爵令嬢と聞いたのだ。
そこから、チャンダ男爵にそれとなく自慢している娘の話を聞いたが、それがまずかった。自慢するなら、ネヘラ公爵家の面々が何かと気にかけている方をすると思っていたが、そうではなかったのだ。
チャンダ男爵は、本当にそう思っていたとしても、世間一般からしたら出来なんてまるでよくないのだ。パタルカール伯爵夫妻からチャンダ男爵に怒りが向いたのは、すぐだった。
とにかく、婚約者のみならず、便乗して母親までも散財しているのに金を出す気は、パタルカール伯爵夫妻にはなかった。
何より勘違いして、出来の悪い方に貢いでいたのだ。そんなのに金を使うなんて、無駄としか言いようがない。
そもそも、ここまで婚約者の家に金を出させようとするのも常識がなさすぎる。親子揃ってのみならず、婚約者だけでも度が過ぎているのだが、その2人にはその常識すらないようだ。
そんなのの機嫌を損ねるなと散々、ダルシャンに言っていたのも忘れて、パタルカール伯爵夫妻は激怒して、どうしてさっさとそのことを言わなかったのかと息子まで責め立てた。
「え? ですが、父上たちが、機嫌を損なうなと……」
「そんなのの機嫌なんぞ、取らんでいい!!」
「っ、」
「そうですよ。お前が、ちゃんとしていたら、こんなのが我が家に来なかったのに」
請求書の山を指さして息子を責め立て、すぐに婚約破棄する方向で動いた。ついでに慰謝料を請求することにしたのは、パタルカール伯爵だ。
そして、チャンダ男爵を呼び出して、怒鳴りつけたのは、それから間もなくだった。
チャンダ男爵は、娘との婚約が上手くいっていると思っていたようだが、最初はパタルカール伯爵の話を誰かと間違えていると思っていた。
「そんな馬鹿な、いくら何でも妻の買い物まで、そちらに請求はしませんよ」
「ほぅ、なら、これは間違えただけということか? なら、これは、そちらが支払え。それと残った方は、ご自慢の令嬢がこちらに請求させているが、これは?」
「っ、な、何だ!? こんな金額のものを請求するはずは……」
「店に確認してある。確かにそちらの令嬢が、買ったそうだが?」
それにチャンダ男爵は、嫌な汗をかいた。手違いだと言えば、支払いを全部チャンダ男爵家でしなくてはならなくなる。
だが、その支払いどころか。婚約破棄して、慰謝料までも出せと言われることになるとは、チャンダ男爵は思っていなかった。
チャンダ男爵がどう思おうとも、パタルカール伯爵はこんなのと婚約なんてさせておけないとして、すぐさま破棄となった。
残ったのは、散財したものの支払いと慰謝料の件のみだった。
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