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しおりを挟むその頃のフィロマでは、ディルフィニアと婚約した伯爵子息のダルシャン・パタルカールが、そわそわとしていた。
両親に反対されるかと思っていた婚約が、すんなりとしていいと言われて、善は急げとばかりに婚約させてくれたのだ。
だが、具合が悪いのか。学園でも見かけなくなって心配していた。図書館でアタックしていたのをやっかまれてしまったのだ。大して騒いでもいないのにそんなことで、目くじらを立てて他にやることはないのだろうかとあの頃は、頭にきていたが、今は全てが上手くいってウキウキしていた。
「彼女に嫌われないようにするのよ」
「そうだぞ。男爵令嬢だからといって下手なことは言うな」
両親は、やたらとダルシャンにそんなことを言って来た。よくわからないが、嫌われる気など、ダルシャンにはなかった。
チャンダ男爵家に彼女を迎えに行けば、着飾った彼女が……。
「は? 誰だ?」
「え?」
思わず、知らない令嬢がいてダルシャンはそんなことを言ってしまった。それにディルフィニアは驚いていた。
「嫌ですわ。この子が、ディルフィニア・チャンダですよ」
「は? いや、私は……」
明らかに図書館で見かけた令嬢ではない別人が、そこにいた。しかも、何歳か年下に見えるが、着飾っているというか。成金にしか見えない。こんなのを連れて歩くなんて、ダルシャンは恥ずかしいとしか言いようがない。そんな格好をしていたが、それをおかしいとも思っていないようだ。
そこが、既に気持ち悪いとしか言いようがなかった。それでも、両親に散々念を押されたこともあり、機嫌を損ねてはならないと思った。
「あ、あの、このチャンダ男爵家に他に令嬢は?」
「そんなのいませんわ。この家には、この子だけです」
「……」
ディルフィニアの母親の言葉にダルシャンは、何とも言えない顔をしていた。
他の男爵家と間違えたのだろうかと思い始めたが、ディルフィニアは……。
「早く出かけましょうよ」
「っ、すまない。急用ができた」
「え?」
「失礼する」
「ちょっ、」
ダルシャンは、楽しみにしていたデートから、逃げ出した。
その後も、のらりくらりとダルシャンは、ディルフィニアと出かけるのをかわし続けた。それこそ、人違いだとして、すぐにでも婚約を解消してほしいところだが、両親がやたらと気に入っていることもありダルシャンはそれを言えずにいた。
「一体、どこで間違えたんだ? 本物の彼女は、どこにいるんだ? ……まずは、彼女を探さなければ。名前を聞き間違えたのかもしれない」
ダルシャンは、そんなことを思った。
ダルシャンがわそんなことをしている間にディルフィニアたちは、パタルカール伯爵家の名を出して色んなものを買うようになった。特にダルシャンが、どこにも出かけずに逃げ帰ってから、散財は更に酷くなっていたが、この時のダルシャンはそれどころではなかった。
本物の図書館の君が、どこの誰だったのかを気にしていた。
「また、あなたですか」
「っ、」
「ここを出禁になっているのをお忘れになったのですか? それとも、ようやく本を読む気になったのですか?」
「いや、本ではなくて……」
「ここは、図書館です。本以外に用事があるのなら、他所でしてください」
司書にそう言われて、追い出されても、図書館の側をうろちょろするのをやめることはなかった。
それこそ、ダルシャンは図書館の側で女子生徒の出入りをじーっと見ていることが増えた。
「ちょっと、またいるわ」
「気持ち悪い。何なのかしらね」
不審者と思われて気味悪がられるようになるのもすぐだったが、ダルシャンはあの令嬢を探すことに必死になりすぎていて、周りが見えていなかった。
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