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しおりを挟む「ルクレツィア、お兄様と婚約して! 私のお姉様になって!!」
「っ、ヴィルジニア!?」
そんなことを言い出したのは、ルクレツィアが留学を終えて帰る間際だった。
驚いたのは、ルクレツィアよりベレンガーリオだった。
「ヴィルジニアに先を越されたわね」
「っ、」
ヴィルジニアの母親、娘がすっかり懐いたルクレツィアのことを気に入っていたし、父親も今まで取っ替え引っ替えしても勉強をしなかった末娘が、お絵かき以外でも机と向き合う時間が増えて、来年入学しても問題なくなっていることに物凄く感謝していた。
何より、絵の才能も素晴らしいとわかり、彼女の作り上げた絵本にヴィルジニアの両親は感激していた。
「ルクレツィア。その、私と婚約してくれないか?」
「……」
ベレンガーリオにそんなことを言われて、ルクレツィアは悩んでしまった。どうにも即答できなかった。
「ルクレツィアお姉様」
「……ヴィルジニア」
「私のお姉様になって、他は嫌よ」
「お前よりも熱烈だな」
「っ、」
そんなことがあって、ルクレツィアは婚約の話を保留にしたまま、家に戻った。
何かに引っかかっているような感覚がしていたが、ルクレツィアは首を傾げるばかりでわからなかった。
ルクレツィアが久しぶりに学園に行くと見かけない令嬢がいた。
両親は相変わらずで、何か色々言っていたが、聞いていなかった。前より両親の扱いがぞんざいになっていた。
気になったため、聞くことにした。
「あの方は?」
「……あぁ、グラツィアーニ公爵が再婚された相手の連れ子よ」
「再婚なさったの?」
「えぇ、あなたが留学して、すぐだったかしら」
「……」
再婚したとは、ベレンガーリオたちからは全く聞いていなかった。何より、留学してすぐなら、ベレンガーリオに手紙を送っていたはずだ。グラツィアーニ公爵は、知りたいことのみで、再婚の話をしなかったのか。ベレンガーリオが、ルクレツィアにする気はなかったのか。
ヴィルジニアも知らないようだが、ルクレツィアはグラツィアーニ公爵が何を考えているのかさっぱりわからなくなった。
「あの子には、あまり関わらない方がいいわよ」
「?」
「連れ子って言っているけど、グラツィアーニ公爵が認知していたって噂もあるわ」
「え?」
「亡くなった奥方より、再婚相手と結婚したかったらしいし」
「……」
「それにもう時期、生まれて来るのは男の子らしいわ」
ルクレツィアは、そんなことになっていることを知らなかったが知っても、傷つくことはなかった。
でも、同時にベレンガーリオからの婚約の話で悩んでいた理由がわかった。即答できなかったのは、ヴィルジニアの時に大勢の前で暴露したことが、未だに引っかかっていたからだ。
ヴィルジニア本人は許しているようだが、ルクレツィアとしてヴィルジニアと勉強しているのに乱入して来るところも、苦手だった。妹が構ってくれとやるならまだいいが、兄がそれをやるようなのと婚約するのは考えざるおえない。
ヴィルジニアは、休憩の合図のようにしているが、ベレンガーリオはそんなつもりはない。あわよくば、ルクレツィアと2人っきりになりたがっていた。婚約者でもないのに密室で2人になりたがるのも、今思えばゾッとする。
そう、あれこれと嫌なところを上げると思いの外、たくさんあることに気づいてしまった。彼はグラツィアーニ公爵に似ているのは、見た目だけでなく、中身も似ている気がしてならなかった。
そこから、鑑みて断るにしても、ルクレツィアは両親を説得するのに婚約する男性がいないと難しいと思えた。
どうしたものかと思っていると……。
「え? 王女の家庭教師ですか?」
「そうだ。あちらで、ヴィルジニア嬢だったか? 問題児を立派なレディにしたと評判になっているんだ」
「……」
ルクレツィアは王妃に会うことになり、頼み込まれて王女の家庭教師になることになった。
前王妃いわく、最も気に入らない孫がいると王女は言われていたが、実際に王女に会ったことはあまりない。
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