8 / 10
8
しおりを挟む「ルクレツィア、お兄様と婚約して! 私のお姉様になって!!」
「っ、ヴィルジニア!?」
そんなことを言い出したのは、ルクレツィアが留学を終えて帰る間際だった。
驚いたのは、ルクレツィアよりベレンガーリオだった。
「ヴィルジニアに先を越されたわね」
「っ、」
ヴィルジニアの母親、娘がすっかり懐いたルクレツィアのことを気に入っていたし、父親も今まで取っ替え引っ替えしても勉強をしなかった末娘が、お絵かき以外でも机と向き合う時間が増えて、来年入学しても問題なくなっていることに物凄く感謝していた。
何より、絵の才能も素晴らしいとわかり、彼女の作り上げた絵本にヴィルジニアの両親は感激していた。
「ルクレツィア。その、私と婚約してくれないか?」
「……」
ベレンガーリオにそんなことを言われて、ルクレツィアは悩んでしまった。どうにも即答できなかった。
「ルクレツィアお姉様」
「……ヴィルジニア」
「私のお姉様になって、他は嫌よ」
「お前よりも熱烈だな」
「っ、」
そんなことがあって、ルクレツィアは婚約の話を保留にしたまま、家に戻った。
何かに引っかかっているような感覚がしていたが、ルクレツィアは首を傾げるばかりでわからなかった。
ルクレツィアが久しぶりに学園に行くと見かけない令嬢がいた。
両親は相変わらずで、何か色々言っていたが、聞いていなかった。前より両親の扱いがぞんざいになっていた。
気になったため、聞くことにした。
「あの方は?」
「……あぁ、グラツィアーニ公爵が再婚された相手の連れ子よ」
「再婚なさったの?」
「えぇ、あなたが留学して、すぐだったかしら」
「……」
再婚したとは、ベレンガーリオたちからは全く聞いていなかった。何より、留学してすぐなら、ベレンガーリオに手紙を送っていたはずだ。グラツィアーニ公爵は、知りたいことのみで、再婚の話をしなかったのか。ベレンガーリオが、ルクレツィアにする気はなかったのか。
ヴィルジニアも知らないようだが、ルクレツィアはグラツィアーニ公爵が何を考えているのかさっぱりわからなくなった。
「あの子には、あまり関わらない方がいいわよ」
「?」
「連れ子って言っているけど、グラツィアーニ公爵が認知していたって噂もあるわ」
「え?」
「亡くなった奥方より、再婚相手と結婚したかったらしいし」
「……」
「それにもう時期、生まれて来るのは男の子らしいわ」
ルクレツィアは、そんなことになっていることを知らなかったが知っても、傷つくことはなかった。
でも、同時にベレンガーリオからの婚約の話で悩んでいた理由がわかった。即答できなかったのは、ヴィルジニアの時に大勢の前で暴露したことが、未だに引っかかっていたからだ。
ヴィルジニア本人は許しているようだが、ルクレツィアとしてヴィルジニアと勉強しているのに乱入して来るところも、苦手だった。妹が構ってくれとやるならまだいいが、兄がそれをやるようなのと婚約するのは考えざるおえない。
ヴィルジニアは、休憩の合図のようにしているが、ベレンガーリオはそんなつもりはない。あわよくば、ルクレツィアと2人っきりになりたがっていた。婚約者でもないのに密室で2人になりたがるのも、今思えばゾッとする。
そう、あれこれと嫌なところを上げると思いの外、たくさんあることに気づいてしまった。彼はグラツィアーニ公爵に似ているのは、見た目だけでなく、中身も似ている気がしてならなかった。
そこから、鑑みて断るにしても、ルクレツィアは両親を説得するのに婚約する男性がいないと難しいと思えた。
どうしたものかと思っていると……。
「え? 王女の家庭教師ですか?」
「そうだ。あちらで、ヴィルジニア嬢だったか? 問題児を立派なレディにしたと評判になっているんだ」
「……」
ルクレツィアは王妃に会うことになり、頼み込まれて王女の家庭教師になることになった。
前王妃いわく、最も気に入らない孫がいると王女は言われていたが、実際に王女に会ったことはあまりない。
167
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!
Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。
最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。
しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。
不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。
ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。


政略で婚約した二人は果たして幸せになれるのか
よーこ
恋愛
公爵令嬢アンジェリカには七才の時からの婚約者がいる。
その婚約者に突然呼び出され、婚約の白紙撤回を提案されてしまう。
婚約者を愛しているアンジェリカは婚約を白紙にはしたくない。
けれど相手の幸せを考えれば、婚約は撤回すべきなのかもしれない。
そう思ったアンジェリカは、本当は嫌だったけど婚約撤回に承諾した。

さっさと婚約破棄が皆のお望みです
hmp
恋愛
子爵令嬢であるセレーナ・シャープルズの下へ、縁もゆかりもない伯爵家から婚約の打診が届く。幼馴染みのアンドリュー・ローフォード公爵は縁組に反対し、相手方に婚約破棄させる方法を画策する。皆が望むならとセレーナも協力するけれど、そのうちに正式な婚約披露パーティーが決まってしまう。助けを求めた幼馴染みの横には、見知らぬ女性がいた。怒りっぽくなっていく婚約者に、会話を持たない両親、一体、私が何をしたというの。私の意思などないのに。アンドリューは私を守るとそう言ったのに。そうして追い詰められていくセレーナは、ついに婚約を発表した後、意識を失い、目覚めた彼女は声を失っていた。
完結しました。ありがとうございます。

それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)


王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。
window
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。
「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」
もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。
先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。
結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。
するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。
ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる