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しおりを挟む留学先で、ルクレツィアはぼーっとしていた。
授業に困ることはなかった。アンセルモの代わりにあれこれやっているうちに要領もよくなり、頭も昔に比べてだいぶよくなっていた。
この辺は変な話だが鍛えられたおかげだと思っている。元婚約者に感謝はしていない。過去の自分によく頑張ったと褒めている。
他にやることが思いつかなくて、ぼーっとしていた。
「あの方、大丈夫かしら?」
「何でも、留学する前に酷い目にあったらしいわ」
「婚約破棄したのでしょ?」
「その婚約者が酷かったらしいわ」
留学先の令嬢は、噂好きの集まりのようだ。
ルクレツィアは好き勝手に話すのが聞こえていたが、無反応なせいで聞こえていないと思っているようだ。
聞こえているが、興味ないだけだ。まるで、幼い頃に両親にここで待っていろと立たされている時のような感覚だった。
あの頃は、人に興味が持てなかった。両親があの調子だったし、周りの大人たちもみんなそんな感じで、公爵やあの医者のような大人はルクレツィアの側にいないタイプだった。
ただ、目線をあわせてくれるだけでよかった。
なぜ、そこで待たされるのかを説明してくれるだけでよかった
それをアンセルモの父親によって、ルクレツィアの世界は一変した。息子の婚約者となったことで、娘のように扱ってくれたのだ。
その前から、初対面の時でも、1人の女性として扱ってくれた。貴重な存在だった。
……そう、そのせいで、恋だと混同してしまったのだ。そんなことを必死に思っていた。
やることがないと駄目だ。ルクレツィアは、余計なことばかり考えてしまっていた。
「ルクレツィア嬢」
「……」
名前を呼ばれて、そちらを見た。見覚えがある気がして驚いてしまったが、顔には出ていないはずだ。
「突然、すまない。あー、公爵の甥のベレンガーリオ・サルトーニというんだが」
「公爵の……?」
通りで雰囲気が似ているわけだと思ったが、何の用があるのかとそちらが気になった。
「ちょっといいか?」
「?」
「伯父上が、凄く心配しているんだ」
「……」
「すまない。同じ学園に通うから、君のことを頼むと手紙をもらったていたんだが、その、友達を作るのを邪魔をしたくなくてタイミングを見計らっていたんだ」
この方は、ずっとルクレツィアのことを見ていたようだ。
「私が、友達を作る気もないとわかったんですね」
「あー、いや、それは建前で、婚約者もいない者同士で話すと面倒なことになるだろうし、何よりあいつのことを思い出すかと思って……」
「思い出しても、どうも思いません。それにあなたは、似ていない」
「あー、私は、伯父上に似ているらしいな。母上は喜んでいるが、父上が不貞腐れているから、私としては困っているんだ」
「……」
ベレンガーリオは、そんなことを言いながら、伯父に困っていると言い、嘘をつくのも気が引けるから声をかけて来たようだ。
もっとも、それも口実で従弟がしでかしたことを忘れてほしかったのもあったようだ。もっとも、ルクレツィアはもう既にアンセルモのことなど忘れている。
ただ、ティオフィロに似ているベレンガーリオを見て、ルクレツィアは顔立ちだけでなく、色々と似ていることに久しぶりに笑顔になった。
「っ、」
「気にかけてくださって、ありがとうございます。これからは、模範的な留学生になりますから、公爵には何も心配しなくていいと手紙に書いてください。あなたに嘘をつかせませんから」
それだけで、この子息が怒られることにはならないはずだ。だが、まだ、用があるかのように立ち尽くしていた。
「……私と話すのは迷惑か?」
「?」
「せっかく知り合えたんだ。模範的な留学生になるなら、この国の素晴らしさも向こうで話してくれ」
「……」
「いや、その、今のは口実で、その、どこかに出かけないか?」
「……」
ベレンガーリオにそんなことを言われて、ルクレツィアはきょとんとしてしまった。
この子息は、なんだかんだ言いながら、ルクレツィアを誘いたかったようだ。
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