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しおりを挟む「え? 留学ですか?」
「そうだ」
「このまま、今のところに通っても、あなたの幼なじみがいるから、違うところの方がいいのではない?」
「……」
ソラーリ伯爵夫妻であるルクレツィアの両親が、まともなことを言っていることに青天の霹靂で驚きつつ、頭の心配をしてしまった。だって、そんな人たちではない。……ないはずだ。
流石にあんな修羅場を見たから変わったのかと思いそうになったが……。
「費用は、グラツィアーニ公爵が出してくださるから気にするな」
「……え?」
「他にも、困ったことがあれば何でも言っていいそうよ」
「……」
両親を見直したら、秒殺された。この2人は代わっていない。変わっていないどころか。図々しくなっている。
「あの、慰謝料ももらってますよね?」
「あれは、あれ。これは、これよ」
「……」
ルクレツィアは、いやいや、その慰謝料を娘に渡す気すらないのでは?と思える両親に眉を顰めずにはいられなかった。
「そうだぞ。お前を娘のように気にかけてくれているんだ。よかったじゃないか」
「……」
そうでなければ、破棄となった傷物の娘なんて置いておかないかのようにしている両親にいつもの2人だったと思うだけだった。
いや、前より酷いかもしれない。酷くなれる要素があったことにびっくりだ。前の両親は、マシだったわけだ。
それに実の娘のようにグラツィアーニ公爵が気遣ってくれているという言葉にルクレツィアは何とも言えない顔をしたが、そんな変化に気づく人はこの家にいなかった。元よりいないのだ。
ルクレツィアは、ずっと恋をしていた。アンセルモと婚約してから気づいたことだ。
そして、破棄となってしまった今、その恋をなかったことにしなければいけないと思い始めていた。
始まってもいないルクレツィアの初恋を終わらせなければならないのだ。そもそも、始まっていないのだから、終わるのではなくて、なかったことにするだけでいい。そう思うようになると公爵とも離れられるだけでなくて、両親とも離れられるのだ。
しかも、アンセルモのことを好きだと思っているようなのが学園には結構いたようだし、何事もなく通うよりはと留学することにした。
もっとも、アンセルモが手ぐすね引いて学園でルクレツィアが来るのを待っているなんてことを全く考えていなかった。
そんな余裕はなかった。傷心のルクレツィアは、落ち込んでいることに全く気づかない両親とは違い、元気になくなっていくルクレツィアを気にしたのは医者だった。
「ルクレツィア嬢。留学に行きたくないなら、無理することはない。グラツィアーニ公爵に伝えれば……」
「いいんです。……慣れてますから」
「……」
ルクレツィアは、留学することにした。そんなルクレツィアを心配していた医者は、そんなことに慣れることはないと言えないままだった。
ルクレツィアも人のことは言えない。こんなにも心配してくれている人がいたのにそれに気づいていなかったのだ。
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