私が、幼なじみの婚約者で居続けた理由は好きな人がいたから……だったはずなんですけどね

珠宮さくら

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具合がよくないまま、体調がもどることがなかった。

そのため、成績が少し落ちてしまった。その結果だけを見て、ルクレツィアは両親に説教されることになった。

そんなことをされるくらいなら、部屋で休みたかったが、両親はルクレツィアの具合の悪さなんて気づくことはなかった。ルクレツィアのために説教しているのではない。自分たちが、恥をかくことになるのが困るとネチネチと言い、それを聞いていられなくなって倒れた。

倒れるまで、ソラーリ伯爵夫妻はルクレツィアがそこまで具合が悪かったのかと気づかなかったかというとそうではなかった。倒れてからも、そこまで具合がわるいというのを認識することはなかった。

ただの寝不足程度にして、部屋に寝かせていて医者すら呼ぼうとしなかったのだ。

そこに公爵がルクレツィアが倒れたと聞き付けて医者をしてが来てくれたが、ソラーリ伯爵夫妻のただの寝不足みたいに軽く思っているのにまず医者はありえないと思ってしまった。

とにかく診察することにした。医者は、疲労とストレス、睡眠不足だと言い、療養するように両親に話したのだが……。


「療養?」
「ただですら、成績が落ちたのに療養なんてして学園を休んだら、更に成績が酷くなる」


医者は、自分の耳を疑った。いや、我が子が倒れたのに医者すら呼ばないような両親だ。それでも、娘の心配より、成績の心配をするのに絶句した。


「は? 聞いてましたか? 療養しなくては、娘さんの身体が保たないと言っているんですよ。大体、こんな風に具合が悪い時に勉強を頑張っても実になるわけがないじゃないですか。大体、彼女が倒れたと知ってグラツィアーニ公爵が、私にこちらに行くように言ったんですよ。公爵に聞かれたら、全部守秘義務で話せなくとも、嘘はつけない。ましてやそれでまた倒れることになったら、私が公爵の信用と信頼を失う。それは、お2人にも言えるのではないんですか?」
「「っ!?」」


ソラーリ伯爵夫妻は、療養に納得いかない顔をしていたが、この状況で学園やグラツィアーニ公爵家で倒れて迷惑をかけては大変なことになると思ったようだ。

そこにルクレツィアの心配は何もないまま、療養をさせることを渋々了承した。本当に信じられないほどの態度だった。

何よりグラツィアーニ公爵の名前が出ると途端にこうなるのだ。それが不愉快でしかなかった。

両親は、治療するからと部屋から出て言って、医者はルクレツィアにこんなことを聞いた。


「いつも、あぁなのかい?」
「え?」
「あー、ご両親さ。その、普通は娘の心配をするものなんだが……」
「されたことないです」
「え?」
「されたことは一度もないです。そうなるとあの人たち、私の親じゃないってことになるんですか?」
「あ、いや、悪い。私の言い方が悪かった」
「いえ。それで、親じゃないと思っていいのなら、楽なだけです」
「……」


医者は、何とも言えない顔をしていた。それから、2週間休むことになった。

それをアンセルモは父親から聞いたようで、しばらくしてルクレツィアのところに婚約を破棄すると見舞いに来たかと思えば、そんなことを言いに来たことに驚いてしまった。

お見舞いでないのにだろうなとは思ったが、そんなことを言いに来たのに眉を顰めたくなった。珍しく行動する気になったと思えば、自分のためだったようだ。


「破棄ですか?」
「そうだ。2週間も休むなら、他に婚約者が必要になる。それにこんなことで、療養が必要になるようでは、結婚したって困るのは私になるだろ」
「……」


そんな話を療養が必要になったルクレツィアに言いに来たのだ。だが、もっとありえないのは、この後だった。


「それに君は、可愛くなくなったしな」
「……は?」


アンセルモの言葉をいつも黙って聞いているばかりでいたルクレツィアは、それを聞いて思わず声が出た。


「ん? 自覚ないのか? 今のお前、酷いぞ」
「っ、ふざけないで!!」


ルクレツィアは、アンセルモに腹が立って怒鳴りつけていた。

それを聞きつけてソラーリ伯爵夫妻はやって来て、アンセルモを怒鳴っている娘にぎょっとした。


「ルクレツィア! 何をしているんだ!!」
「お見舞いに来てくれているのよ!」
「お見舞い? 使い物にならないから、婚約破棄にすると言いに来たのに? しかも、昔より可愛くないとか、今の私が酷いなんてよく言えるわ!! あんたが、やらない課題を代わりにやって、補講の課題まで片付けている私が療養している間、使えないからいらないですって!? それは、こっちの台詞よ! あんたみたいな婚約者、いらないわ!!」
「……今の話は、本当なのか?」
「ち、父上!?」
「ルクレツィアの見舞いに立ち寄ったんだ。アンセルモ、婚約破棄するとお前が言ったのか?」
「え、えぇ」


グラツィアーニ公爵は、見たことないほど怒っていた。それにソラーリ伯爵夫妻はおろおろしていて、息子の方は面倒くさい顔をしていた。


「お前たちの婚約は破棄する」
「なら、新しい婚約者を……」
「それと同時にお前のことは勘当する」
「え?」
「公爵!?」
「ご子息は、アンセルモ様しかいないのにそんな」
「いいんだ。こんなのにグラツィアーニ公爵家を継がせるわけにはいかない。ルクレツィア嬢、今まで悪かったな。ソラーリ伯爵夫妻も、申し訳なかった」
「お前のせいだぞ!!」


だが、アンセルモは破棄だけでなく、勘当されることになったのを聞いて、ルクレツィアに怒鳴りつけて来た。


「勘当されたことまで私のせいにするの? というか、あなたの成績、私が代わりにやった課題のおかげでそこそこになっているけど、毎回ぶっちぎりの最下位だって、知って言ってるのよね?」
「は? そんなわけないだろ」
「授業も出てるだけで、課題も学園に入ってからどころか。家庭教師に見てもらっていた時から、私がやってるのに勉強ができるわけないじゃない」


ルクレツィアの暴露にソラーリ伯爵夫妻は、ぎょっとしていた。それこそ、最下位なんて成績を取るのは平民の生徒が取るようなものだ。

だが、アンセルモはそんなことないと言い続けるので、ルクレツィアは証明するから、名前を書けと紙とペンを渡した。


「は? 名前を?」
「そうよ。それだけで、どれだけあなたができないかわかるわ」
「はっ、そんなわけないだろ!」


そう言いながら、アンセルモは名前を書いた。


「……嘘でしょ」
「?」
「アンセルモ。本気で、いつもこう書いているのか?」
「へ? そうですけど?」


ソラーリ伯爵夫妻は頬を引きつらせて、グラツィアーニ公爵は呆れた顔をして、わけがわからない顔をしているアンセルモを見た。


「お前、自分の家名のスペルも知らないのか?」
「へ?」


そう、アンセルモはまともな勉強をしてこなかったせいで、わかっていなかった。

いや、ルクレツィアは昔は色々と言っていたが、本人はそれを覚えていないようだ。

その他にも、誤字脱字が多くてルクレツィアですら、読めなくなっていた。

試験で名前を書くたび、教師は名前すらまともに書けないのを見て見ぬふりしていたから、アンセルモは自分がどこまで酷い状態なのかわかっていなかった。

そして、父親も、息子のことを何もわかっていなかった。


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