私が、幼なじみの婚約者で居続けた理由は好きな人がいたから……だったはずなんですけどね

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
1 / 10

しおりを挟む

ルクレツィア・ソラーリは、幼なじみのアンセルモ・グラツィアーニと婚約した。それも、かなりあっさりと決まったことだった。

そもそも、幼なじみとなる前に婚約した方が正確だ。でも、ややこしいため、幼なじみと婚約したと思われているのをいちいち訂正しなかったことで、周りは幼なじみと婚約した令嬢としてルクレツィアのことを見ていた。

幼なじみと婚約するほどアンセルモのことが好きなのだと思われている気がする。そう、婚約し続けているほどに好きなのだと思われているのは知っている。

それが物凄く勘違いで、好きだから婚約し続けているわけではない。むしろ、どんどん嫌になっている。そもそも、好きだったことが今までない。好きだと思うところが、まるでない人だ。

そんな人と今も婚約者のままなのは、ルクレツィアに婚約者でいたい理由が他にあったからだ。その話を誰かにしたことはないし、誰も気づいてはいないはずだ。

……相手にも、ルクレツィアの気持ちなんてわかっていないからこそ、今の関係が続いている。それで、ルクレツィアはよかった。

段々と婚約者のやることなすことの度が過ぎたことをしているが、それが当たり前になりすぎていて、とんでもないことになっているが、本人にその自覚は未だに欠片も芽生えていない。そのため、ルクレツィアは限界に近くなっているが、それでも耐えていた。

せっかくだから、正確にルクレツィアに何があったかを思い出して見ることにする。それも、誰にも話したことのないことだ。

ルクレツィアに友達がいないわけではない。多いわけでもないが、そんなことを話せる友達がいないというか。そんなことを言うと婚約のことを見直そうとされかねないため、誰にも言わずにいた。

あれは、まだ、こんな風に事実と違うことの揚げ足を取ることもなく、ポワポワとしていて変なのに捕まっても逃げも隠れもせずに成すがままの女の子だった。そう、変なのがいたら、あっさりと誘拐されそうなくらい無防備な女の子だったと思う。

アンセルモと初めて会った時は3歳くらいだったはずだ。そう、あの時にこの場所にいなければよかったのだ。

いや、捕まっても逃げるか。大きな声を出していればよかったのだが、この頃のルクレツィアは、両親に連れられるまま、パーティーなどに出ても壁の近くに突っ立っていることが多かった。

もっと言うと人間に興味なかった。だから、両親に連れられて出かけても、そこにいろと言われるままに突っ立っいられた。普通は、つまらないとして泣くか、暴れるか。意思表示をするところだったのだろうが、そんなことするのも面倒だった。

それに普通なら、少しでも親が離れたりすると騒ぐもののようだが、ルクレツィアは我が子だろうと子供に興味ないことに気づいていて、やり過ごすことが一番平和だと思ってしまったため、大人しくしていた。

だから、パーティーでも大人しくしていられる子供として、両親は自慢していたようだ。周りが凄いと言うのが嬉しかったのだろうが、そんなことで引っ張り出されて3歳児を立たせたままにしているのも、どうかと思うがその辺の嫌味や陰口は側でされない限り耳に入らないようだ。

それは、今も何ら変わっていない。そんな両親とそれに従う使用人たちしか、あの頃のルクレツィアには大人の見本がいなかった時にここにいろと言われたところから、その日、初めて移動した。

ルクレツィアの意思ではない。両親のように一言でも言ってくれたからでもない。

じっと見てきた見知らぬ男の子に捕まったからだった。


「このことなら、こんやくしてもいいよ」
「……」


そう言って、手を握られて連れられるままルクレツィアは、手を繋ぐ男の子と男性を見比べて首を傾げた。

そう、何も言われずに立っていた場所から手を掴まれて移動することになり、そんなことを言われたのだ。3歳児のルクレツィアにわかるわけがない。今、考えてもわからない。

男性は、我が子と視線を合わせるべく、しゃがみこんだ。それにルクレツィアは目をパチクリさせた。そんなことをする大人が、ルクレツィアの側にはいなかったのだ。

両親がしたのを見たことはない。使用人も、話す時にしたことはなかった。だから、初めて大人に興味がわいた。

手を繋いだまま話そうとしない男の子よりも、その男性が気になって仕方なくなっていた。


「アンセルモ。このお嬢さんと知り合いなのか?」
「ううん。はじめましてだよ」
「なら、まずは自己紹介すべきだ」
「アンセルモ」
「……」


男の子の名前を聞いても、ルクレツィアはどうでもよかった。

すると男性も自己紹介してくれた。


「この子の父親のティオフィロ・グラツィアーニだ。突然、連れて来られたようで、すまないな。お嬢さんの名前を聞いてもいいかな?」
「……ルクレツィア・ソラーリ」
「ルクレツィア。かわいいね」


ルクレツィアはティオフィロに名前を教えたにすぎないが、アンセルモは、可愛いを連発して抱きついて来た。ルクレツィアは、それに成すがままだった。

アンセルモより、ティオフィロのことを見ているのに忙しかった。何なら、邪魔するなと思っていたが、言葉にはしなかった。

その後、そこにいろと言うところからいなくなったルクレツィアを探し回っていた両親にルクレツィアは叱られかけたが、ティオフィロが間に入ってくれたからそんなに怒られることはなくなった。

そんなことがあり、アンセルモが気に入ったのが大きかったことで、そのまま流されるようにルクレツィアは婚約した。

それを止めようとすれば止められたかと言うと両親は、乗り気で婚約したくないと娘が言ったところで婚約させる以外の選択をさせる気はなかったのは明らかだった。

両親は、ティオフィロからの婚約の話に舞い上がっていて、生まれて初めて褒められた。


「よくやった!」
「流石は、私たちの娘ね!」
「……」


浮かれた両親を初めて見たのも、その時だ。

そんなこんなで、婚約することになったのは、ルクレツィアが4歳となってからだった。そこから、10年が過ぎた。

だから、みんなルクレツィアは幼なじみと婚約したと思っているが、婚約してから長くいるだけの顔なじみなだけなことは誰も知らないままだった。

そんな出会い方をして好きになったのが、婚約者ではないことに気づく者もいなかった。それこそ、そのことは誰にも言う気はなかった。

ルクレツィアは、好きでもない子息と婚約しながら、恋をしていた。でも、それを言葉にしたり、考え続けていても、幸せな気持ちなんてごく僅かなものしかなかったが、そのごく僅かな感情にすがって生きていた。

それ以外にルクレツィアには手放したくないものは何もなかった。そんな不毛な恋をしていた。

不毛でいて、始まることもない恋をしていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

処理中です...