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しおりを挟むそんなことがあってから、数年が過ぎていて、今回の商人が語る物語を聞いて大泣きすることになったわけだが、マリーヌは……。
「そっか。色々と尾ひれがついていたから、私のことだとは全然気づきませんでした」
「……うん。マリーヌちゃんなら、そうだろうね」
ルドヴィクは、色々と諦めた遠い目をしながら、そんなことを言っていた。
オーギュストは、それよりも気になっていることを口にした。
「話をするのは結構だが、肝心の買い物は、これでしまいなのか?」
「オーギュスト。流石にそれは……」
「あ! 買い物しに来てたんだ!」
「……」
「……」
買い忘れを買いに来たことも、マリーヌは忘れていたようだ。
「マリーヌちゃん。慌てなくても、夕食の手伝いもするからね」
「何を買うか決まってるんだよな? メモ、寄越せ」
慣れたようにマリーヌの左右に並んだ。それは、妹の世話をしている兄たちのようにしか見えなかった。
兄以外に見えていたら、テオドールの耳に入ったら二人の命が危ういことになるが、お似合いだと言うものはいなかった。
「それとマリーヌ。買い物の時は、一人で駆け出すな」
「そうだよ。出かける時の約束だからね。一人になるのは、禁止。何があるか、わからないんだから」
それこそ、何かあったら、その当番の騎士の命が危うくなる。それは、マリーヌには伝えないが騎士の間では、それが徹底されていた。
今日の当番の若手の騎士は、地獄を味わうことになるだろうが、それに同情する気はこの二人にはなかった。マリーヌを泣かせて、こうして二度手間をかけているのだ。それだけで、許せるわけがない。
「今日の当番は、誰だ? サボりやがって」
「いえ、一緒に行ってくれたんです。でも、話に夢中になってしまって……」
マリーヌと一緒に行ったのだが、その話に感激してしまい、買い物が目的だったのを覚えていると彼は言っていたが、すっかり忘れて帰って来てしまったのだ。
忘れてしまったものは仕方がないとマリーヌは思っていた。むしろ、仕事にしているのはマリーヌだ。マリーヌの責任でしかない。
あちらは今日聞いた話を騎士たちにするのに夢中で、忘れたことを思い出してはいないだろうが、それを責める気はマリーヌにはなかった。むしろ、感動する話を聞かせてくれたと思っているだけだった。
そのため、その騎士は今も話をするのに夢中で、あとで買い物係をきちんとこなさなかったことで、次の日の訓練が厳しいものになるとは思わなかった。
ようやく買い物をせずに帰って来てしまったことがわかったのも、その訓練の辛さが身にしみた頃だったのだ。物語を覚えることに長けていても、買い出しのし忘れで、大変な目に合うとまでは思っていなかったのだ。むしろ、そこまでのことになるとは流石に思っていなかったのだ。
騎士団の中で、マリーヌがどれだけ大切にされているかを理解しきれていなかったことで、再教育が必要だと思われたことは、言うまでもない。
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