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しおりを挟むとある国で、家族から何かと虐げられている女の子がいました。家族は、虐げているつもりはなく、極々普通のことだと思っていて、虐げているという感覚よりも、姉は我慢する存在だと思いこんでいて、自分たちは全く我慢をしてはいませんでした。それが、その家での当たり前となってしまい、他所は他所。我が家は、これが当たり前となっているようでした。
伯爵家に生まれた女の子の名前は、エレーヌ。エレーヌ・ラヴァル。生まれた時から、とても可愛らしい女の子で、将来が実に楽しみだと周りによく言われていましたが、母親は自分と全く似ていない可愛いらしい娘に妬ましさが募ってしまったたようで、その子に愛情を注ごうとはしませんでした。
そんなエレーヌと違い、その後に生まれた彼女にとっての妹は、姉と違って一般的に可愛らしいとは程遠い感じでしたが、その母親は自分にそっくりな娘に並々ならぬ愛情を注ぎました。そのため、とてもわがままな女の子に育ち、お金をかけにかけまくったおかげで、可愛いと言えるくらいにはなった妹が一人いました。その子の名前はミシュリーヌと言いました。
母親が偏った育児をしていることをおかしいと思うことなく、父親もエレーヌよりも、ミシュリーヌの方が自分に似ていることで同じように周りに褒められることの多いエレーヌよりも、ミシュリーヌが可愛くて可愛くて仕方がなかったようで、これまた父親の方もエレーヌではなくて妹のミシュリーヌの方に一心に愛情を注いでいました。きっと、子供の頃から色々とあったのでしょう。
そんな両親のもとで、偏りきった愛情を注がれた者と似ていないからと虐げられることになった姉妹がいましたが、そんな風に育てるのが、その国の当たり前ではありません。この両親は子育てに不向きとしか言えませんが、その家に生まれたことは不運でしかありませんでした。
エレーヌは、生まれてからというもの両親の偏った愛情で、わがままに成長を遂げる一方のミシュリーヌにたくさんのものを譲って来ました。
例をあげれば、ピンからキリまであるのですが、それを渡すたびにエレーヌが片っ端から忘れるようになるのも、割とすぐのことでした。
一つ一つのことを覚えていたところで、エレーヌの手元にそれが返って来ることがなかったため、覚えずていても意味がないのです。それこそ、覚えているだけで悲しくなるだけなのです。どうせ、二度と戻って来ないのなら、一層のこと忘れてしまった方が、悲しくなんてありません。
だから、エレーヌがあえて覚えずに忘れるようにしたのは、エレーヌなりの悲しみのやり過ごし方でした。この家で生きていく知恵でした。
そんなエレーヌに両親は、こう言い聞かせたのです。
「お前は姉なんだから、そこくらい譲ってあげなさい」
「……」
「そうよ。そのくらいで、怒るなんてお姉さんとしてなってないわ。駄目じゃない」
「……」
両親は、溺愛してやまない妹の味方をするばかりで、エレーヌに我慢を強いてばかりの毎日でした。それこそ、わがままな妹を叱ることなんて一度としてエレーヌは見たことがありません。
その逆に姉だからという理由で、エレーヌだけがそんなことを言われ、我慢をさせられるのです。他は知りませんが、こんな家ばかりだったら世界は夢も希望もない気がエレーヌはし始めていました。
(我慢も、叱られるのも、いつも私ばかり。姉だからって、どうして私ばかりに言うんだろう)
何を言っても、エレーヌの意見が通ったことなんて一度としてありません。
悪いのは姉のエレーヌ。
いい子なのは、妹のミシュリーヌ。
自分たちにそっくりなミシュリーヌは、甘やかされて当然。自分たちの子供の頃は、周りがおかしかったのだと両親たちが思っていることも、エレーヌは知りません。昔のことで、ネチネチと娘のエレーヌに仕返しのようなことをしているなんて思いもするわけもなく、エレーヌを我慢させることで鬱憤を晴らすことに慣れきっていたのです。
それこそ、姉も、妹も、そんな両親にそういうものと教育された被害者なのですが、段々とエスカレートしていくわがままに妹が被害者でおさまりきらなくなっていくのも、すぐのことでした。
それこそ、エレーヌにはミシュリーヌのどこがいい子なのか、全くわかりませんでしたが、両親はそう言ってばかりいるので、そうなのだろうと諦めることにしました。
そして、ミシュリーヌもそう言われて育ったことで、ろくに考えもせずにそうだと思っていました。そんなミシュリーヌに友達は一人もできませんでしたが、それも周りが可愛い自分に嫉妬しているからだと両親に言われて、そうだと思い込んでいました。
嫉妬ではなくて、付き合いきれないのだと思うことなどなかったのです。
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