女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら

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マリーヌは騎士団の使用人となり、常識的なことを少しずつ理解するようになった。ほんの少しだが、それでも最初に比べればだいぶ良くなってきた。最初から見ていなければ、伝わらない苦労を騎士団の面々と老婦人は分かち合っていた。

まぁ、騎士団の中でマリーヌと同じように常識が欠落しているのも若干名いたが、マリーヌが楽しそうにして笑っているのを見るだけで彼は満足なようで、戦いで憂さ晴らしするほど煮詰まることもなく、機嫌のよい彼に安堵している騎士も少なくなかった。

そんなことで、一喜一憂することになった騎士団だが、マリーヌが使用人になってから毎年大変な害獣駆除を騎士団が無傷で終えたことで評判となったのも、割とすぐのことだった。

だが、その殆どを仕留めたのが、この使用人だったことを知る者は限られていた。

それこそ、報告を聞いた国王は、騎士団長の頭の心配をしたほどだった。

しかも、仕留めた肉がすこぶる美味しいとわかったことに対しても、仕留め方一つだとマリーヌに聞いたままを話したのだ。それも、自分の手柄にせずにきちんとマリーヌの名前を出したのだが、信じてもらえるとは思っていなかったようだが、隠す気もなかったのは、理解された時のことを見越してのことだったようだ。

それを半信半疑で聞いていたが、後に討伐された害獣の肉を食べることになり、国王が騎士団長が話していた女性に興味を持ったのは、かなり経ってからだった。


「まずいな」
「っ」


国王の言葉に料理長は、心外だとばかりの顔をした。


「ですから、あれは食用には向かないんですよ」


それをどうにかしろと言って、国王はエドガーの任せている騎士団のとこの使用人に料理法を聞いて、食えるものを出せと要求したことで、マリーヌが宮廷のキッチンにしばらく行くことになったのは、害獣討伐でマリーヌが騎士団の面々と出会ってから数ヶ月経った頃だった。

まぁ、それも揉めに揉めたが、数日だけ貸し出すということで話はまとまったのだが、マリーヌのいない間、老婦人もテオドールも機嫌がすこぶる悪くて大変だったが。

または、害獣の肉の美味しさを伝えられると一人ウキウキしていた。そのため、引き止めきれなかったようだ。








「この肉で料理をしたんですか?」
「何か問題でも?」


王宮つきの料理長が、マリーヌの言葉に眉を顰めていた。その顔は不満だらけだった。

国王に小娘から料理を教えてもらえと言われたのだ。そんな屈辱は初めてだった。料理長だけでなくて、キッチンの中は、マリーヌのことを馬鹿にした面々ばかりだった。

それに気づいていないのか。マリーヌは、気後れすることもなく、素材を見ていた。見た目と匂いだけで、マリーヌは肉の良し悪しがわかるようだ。


「これで、肉料理をするなら、手間暇を惜しんだら、美味しく食べれませんよ。数日は、煮込まないと」
「そんなこと、聞いたこともないな」


料理長の言葉にシェフたちは、マリーヌのことを馬鹿にして色々言っていたが、マリーヌは気にせず調理を始めることにした。その間も、邪魔だと言われて、調理をするなら他の者の邪魔にならないようにやれと言われて、それに口答えすることなく、キッチンを自由に使える真夜中に寝ずに調理をすることになった。

もっとも、昼間に寝ていたかと言うとマリーヌは寝ていなかった。宮廷のメイドが失敗したらしく、半泣きになっているのを見つけて、マリーヌは彼女のフォローに費やしたのだ。そして、夜中は肉の仕込みをしていた。

つまり寝る間もなく働いていたのだ。それを料理長が知ったのは、失敗したメイドがマリーヌに助けてもらったことをメイド長に報告したことで、メイド長から料理長に話がいったからだった。

それでも、料理長はあわよくば取り入って、騎士団の使用人から宮廷付きのメイドになりたいのだと思っていた。老婦人が前に勘違いしていたように良縁を求めていると思っていたのだ。若い女の考えることは、それにつきると思ってのことだ。

だが、マリーヌがその辺の若い娘と全く違うことに気づくのは、それからすぐのことだった。








数日して、料理長たちが試食した肉は、驚くほど美味しくなっていた。


「っ!?」
「これが、あの肉なのか?」
「すげぇ、美味い」


マリーヌは、寝ずに数日、料理をしていたこともあり、フラフラしていたが、料理のレシピを書きまとめたのを料理長に渡していた。


「いいのか?」
「?」
「これは、秘伝のものなんじゃないのか?」
「秘伝? そんなんじゃないですよ。食べるものが取れない時の保存食用にいきつくまでの途中で見つけたってだけです」
「保存食……?」
「保存する方法です。このお肉を細く切っていって、余分な水分を布で取ってから」


マリーヌは、サラッとレシピを話し始めていた。その工程は、斬新なものだった。一人、また一人と厨房にいる者たちはメモを取り始めていたが、マリーヌは気づいていなかった。

マリーヌは、眠気と格闘しながら、話を続けていた。


「その後は、数日かけて乾燥させるんです。でも、ここの気候ではカビが生える可能性が高いので、オーブンでカリカリに焼いた方がいいと思います。まぁ、そこまでやったことがないので、色々試さないと駄目だと思いますけど」


料理長までも、いつの間にやら他のシェフと同じくメモを取っていた。

それにようやく気づいたマリーヌは、目をパチクリさせていた。


「マリーヌ嬢。よければ、そのままオーブンを使って試してみてくれ」
「え? でも、これから仕込みですよね? オーブンを使ってしまったら……」
「ここのオーブンは、いくつもある。そうだな。あちらのオーブンが一番新しいんだ。使い勝手もいいから、使ってくれ」


一番新しいと聞いて、ぎょっとしてしまったが、料理長が補佐をつけてまでくれたので、マリーヌはそのまま保存食作りを模索することになったが、夜中にやるよりはいいかとフラフラする頭で動くことにした。


「どうだ?」
「この辺りが、用途別に使えて便利かと思います」


お酒のつまみや保存食など、数時間で仕上がっているそれらを試食して、料理長は頷いていた。


「マリーヌ嬢。スープの方とおつまみの方を陛下にお出しする。着いて来てもらえるか?」
「え?」
「説明は君からしてくれ」
「えっ、でも……」


料理長に盛り付けられたそれをマリーヌが、最終確認をしたのを届けることになった。


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