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「まるで、猫のようだな」
「あなたったら、そんな呑気なことを。すぐにでも、やめさせないと」


両親は、庭で使用人が騒ぐのを聞いて見てみると、ルシアが高い木に登っていたのを最初に見た時、ぎょっとしたが、それがスルスルと器用に降りたのだ。


「だが、あれでルシアは発散しているように見えるぞ。バレリアのように当たり散らすよりも、身体を動かして晴らす方がいい」
「そんなこと言って、大怪我をしてからでは遅いんですよ。アドルフィトでも、あんなにやんちゃではなかったのに」
「やんちゃではなかったというか。アドルフィトは、運動はからっきしだからな」
「それは、本人も気にしているので、あの子の前では言わないでくださいね」
「まぁ、からっきしのままでも、あれだけ頭がよければ問題はないだろ」


そんなことを両親は話していた。

使用人たちは、ルシアを見つけて大変だと迎えに行って降りれなくなったりしていたが、その脇を何でもないようにルシアはスルスルと降りて行く姿に使用人だけでなくて、両親も呆気に取られていた。


「あれは、運動神経がいいなんてレベルではなさそうだな」
「大人の方が降りられなくなってるわ。全く、怪我しなきゃいいけれど」


逆に迎えに行った大人の方が降りられないと騒ぎ出しているのを両親は見ることになったのもすぐだった。

ルシアにできたのだからと同じように降りようとして、失敗したりしているのをポカンとした顔をして両親や使用人たちは見ていた。

多分だが、あれが普通なのだろう。ルシアは、ある意味、異常なのだ。

アドルフィトは運動神経が皆無だったが、その分、部屋で勉強していて遊び回る時も、ルシアのようにはしゃぐこともなかった。

バレリアは高いところに登ろうとすらしなかったし、弟のように大人しく勉強することもなければ、家庭教師をつけたところで、勉強し続ける集中力もなかった。

ならばと花嫁修行になりそうなこともやらせようとしたがバレリアは、やる気を見せるどころか。何ができるんだと思わせるほど酷かったのは確かだ。


「だいじよーぶ?」


ルシアは怪我した使用人にそんな風に声をかけていた。

次女は、そんな上の二人とは違っていた。三者三様だとしても、極端すぎる子供たちに両親も、使用人も絶句していた。








そんなことが、しばらく続くことになり、今日もやっているなと思ったら、庭ではルシアを見かけなかった。


「ん? お転婆姫は、今日はいないのか?」
「あら、変ね」
「ついに木登りをやめたかな」
「……やめたにしては、使用人たちは屋根を見上げてるようですけど?」
「……」


その日、ついにルシアは屋根の上にどこから登ったのか上がってしまっていて、それには両親は慌てた。


「なんてことなの!?」
「一体、どこから登ったんだ?!」
「わかりません。気づいたら、あちらでお昼寝をなさっていたようで……」
「昼寝……? 益々、猫のようだな」
「あなた!!」
「そうだな。ルシア! 降りておいで」


父親は、ルシアに降りて来いと言うのに流石にそんな夫に妻と使用人は眉を顰めていた。


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