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それから、しばらくしてシーラが、カルニカが他の子息と浮気していると騒ぎ出したのだ。


「別の子息……?」


プリシャは、それを耳にして首を傾げた。また、ジテンドラと他の子息を見間違えたのかと思ったりもした。

先日のこともある。シーラなら、見間違えそうに思えた。何なら、それが1番ありそうにプリシャには思えてならなかった。

それこそ、大騒ぎしていたのを目撃した者もいて、またあの令嬢が騒いでいるのかと思われててもいた。


「あの令嬢、この間、妹さんの幼なじみの令嬢のこと勘違いさせたって責め立ててたんじゃなかったか?」
「ん? 何の話だ?」


目撃していた子息が、見てない子息に話をしていた。


「勘違いしたのは、どう聞いても、今騒いでる令嬢が勝手に勘違いしているようにしか聞こえないな」
「今回も、勘違いしてそうだな」


そんな風に思われていた。シーラは、それが耳に入ることはなかった。

すると別の日には、ジテンドラが他の令嬢と浮気していると騒ぎ立てたのだ。


「ジテンドラ様も……?」


プリシャは、騒ぎ立てるシーラの言葉を耳にするたび、見間違えたのではなかろうかとついつい思ってしまっていた。


「いい加減にしてよ!」
「そうだ。私たちは、2人で出かけていただけだ」
「嘘つかないで! 私は、ちゃんと見たのよ!!」


シーラが騒ぎ立てるたび、カルニカとジテンドラはお互い一緒にいたと話した。やはり見間違えたのではないかとプリシャは前科がシーラにはあるため、そう思ってしまっていた。

だが、シーラはどちらも別の人といたというのを曲げなかった。確かに見たから、間違いないと言い、それで妹とその婚約者と口論していたり、喧嘩するのをよく見かけた。

3人が揉めているのを巻き込まれたくないと彼女たちの近くに人は寄り付かなくなった。側にいると言い争うのに巻き込まれて、面倒なことになるのだ。

そのため、プリシャは幼なじみとその婚約者と学園ではあまり一緒にいなくなっていた。もっとも、もうシーラはプリシャに怒鳴り散らしたことなどなかったかのようにしていた。

今は、やっぱり浮気していたと責めたてるのに忙しくしている。もっとも、それが片付いてもプリシャとその婚約者に謝罪する気があるようには全く見えないが。

クラナ侯爵家から、プリシャは謝罪された。シーラが謝罪する気はなくとも、彼女たちの両親はきっちりしていた。

プリシャの両親も、その謝罪を聞いて学園でとんでもないことに巻き込まれたことが知られることになった。


「プリシャ、大変な目にあったな」
「でも、幼なじみとそのお姉さんは別物よ。割り切って、お付き合いするといいわ」
「……はい。そうします」


カウル伯爵夫妻であるプリシャは、クラナ侯爵家からの謝罪で今後ともカルニカの方とは、これまで通りに仲良くしてほしいと言われたことをプリシャに言った。

元より幼なじみと縁を切る気がないプリシャは、母に言われても反論する気はなかった。

そんなことがあったのをシーラは知っているのか。関係ないと思っているのか。

浮気うんねんとそんなに言うほど、シーラは2人に張り付いて休日を過ごしているのかと思うと張り付いている方より、張り付かれているカルニカに同情せずにはいられなかった。

プリシャのように留学していて休日に婚約者と出かけられないプリシャにとって、出かけることのできるカルニカたちが羨ましく思えていたが、今は羨ましいなんて言っていられない状況になっていた。


「婚約したばかりなのに。大丈夫なのかしら?」


あんな風に浮気だと言われ続けられたら、婚約していたくなくなりそうだ。もしかするとシーラの方は、そうなってほしくて騒いでいるのかもしれない。

そう思うとしっくりくる責め立て方に思えて、プリシャは、そんなお姉さんが自分にいたらと思うと世知辛い気持ちになってしまっていた。

幼なじみに悪いが、シーラのようなお姉さんならプリシャはほしいとは思わない。

学園で、浮気うんねんと騒ぐのを耳にするのも、いつものことのようになって、どのくらい経っただろうか。そんなこといつものことになるのも、変なのだが、みんなすっかり慣れてしまった。いや、慣れなければ学園にいられなくなっていた。

それも、プリシャに婚約者が浮気していると言って来たあとから、酷くなっていく一方となって、名物のようになっていた。


「また、やってるわね」
「あれ、本当に浮気を見て言っていると思う?」
「そんなわけないわ。妹が先に婚約したのが、気に入らないから、婚約を台無しにしようとしているんじゃないかしらね」
「やっぱり? 私も、そう思っていたわ」


それを聞いて、あり得そうだと令嬢たちは頷いたり、納得したような顔をしていた。

他でも同じように思われていた。勘違いがすぎるせいで、シーラが見たというのをみんな怪しんでいた。


「その前は、妹の幼なじみの婚約者が妹と浮気していると騒ぎ立てていたようよ」
「あれは、酷いなんてものじゃなかったわね。婚約者といるだけで、浮気を疑われて騒がれたら迷惑すぎるわ」
「妹さんも、あんなのが姉で大変ね」
「全くだわ。私なら、とっくに縁を切っているわ」
「私もよ。姉だとすら知られたくないわ」


シーラは、すっかり嘘つきだと思われてしまっていた。誰も彼もが話半分どころか。ちゃんと聞いていなかった。それまで、少なくとも、前まではシーラには友達がいたが、今回のことですっかり友達をなくしてしまっていた。それでも浮気していると喚き散らすのをやめようとはしなかった。

どうにも意地になっているようにしか見えなかった。


「どうして、誰も信じてくれないのよ! あの2人は本当に浮気しているのよ!!」


そんなことを叫んでいるのをプリシャは耳にして、じっとシーラを観察していた。どうにも嘘をついているように見えなかった。

思い込んでいたのを見ていたからわかりづらいが、見たことは間違いない気がした。

それにカルニカとジテンドラは、お互いのことをシーラが浮気していると騒ぎ立てるたび、そんなわけないとしていたが、そちらがどうにも気になってしまった。一緒にいたと言っているのだ。シーラが、どのタイミングで見ていたかを聞かずに常に一緒にいたと。

相手にするのが面倒になっているからおざなりになっているのかも知れないが、それこそ、どこに行くにも一緒ならば見間違いでしかないが、シーラは全く別の人とわざわざ言うのだ。

その辺が、どうにもプリシャには奇妙に思えてならなかった。


「どうして、誰も信じてくれないのよ! 私は、確かに見たのよ!!」


妹とその婚約者が、お互いに浮気していると言えば言うほど、そこまで妹が先に婚約したのが許せないのかと両親すら激怒した。

当たり前だ。そんなことを騒ぎ続ければあらぬ誤解を生む。シーラの言っていることを真に受ける者がいなかろうとも、体面が悪い。


「お前は、何を考えているんだ!」
「そうですよ。カルニカが、先に婚約したのが、そんなに気に入らないの?」
「違います。確かに見たんです!」


両親にも、シーラは見たと言い続けた。すると妹は……。


「酷いわ。学園でも、お姉様が騒ぎ立てるから、婚約者も、私も、どれだけ迷惑していると思っているのよ」
「事実じゃない! さっさと認めればいいのよ!!」
「認めるも何もないわ。私は、浮気なんてしてないのだもの。どうして、そんな嘘をつくのよ」


そう言って、カルニカは泣き出し、それを母が抱きしめた。


「このままじゃ、ジテンドラ様にご迷惑をかけっぱなしになってしまう。お父様、婚約を解消して。ジテンドラ様とも、話し合ったの。それが一番いいって」
「カルニカ」


母は、そんなことを言いだしたカルニカを抱きしめながら背中を撫でた。


「それなら、大丈夫だ。あちらの家からも、今回のことは寛容に受け止めてくれている。お前たちの婚約は、解消しなくても大丈夫だ。シーラ、きちんと謝罪しろ」
「でも、お父様、私は……」


シーラは、それでも謝罪しようとしなかった。


「いい加減にしろ!!」
「っ、」
「妹に先を越されたのが、そんなに腹ただしいと思うとは思わなかった」


シーラは、それに悔しそうにしていた。

それでも、謝罪もせずに騒ぎ立てるのを全くやめなかったことで、両親は堪忍袋の緒が切れることになり、シーラは修道院に入ることになった。

そうしなければ、婚約を解消しない方向でどうにかしようとしているのに解消しないわけにいかなくなりそうだったのだ。

そんなことがあったせいか。カルニカとジテンドラは、シーラが修道院に入ってから落ち込んでいた。少なくとも幼なじみのプリシャには、カルニカが落ち込んでいるように見えてならなかった。

解消しなくてよくなったが、知らない者がいないほど、学園で姉が騒ぎ立てていたからかも知れない。

卒業まで、まだ数年かかるのだ。大変な目に会った令嬢だとあちらこちらで噂されるのだ。姉が色々言って来るから怒鳴り返していたのにも、冷静になってから侯爵令嬢らしからぬことをしてしまったと恥ているのもあるのかも知れない。


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