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しおりを挟むヴィルヘルミーネは、あれから兄たちの結婚式に出てから、王都から初代聖女の生まれた街に戻って来ていた。そこで以前と変わらぬ日々を送っていた。
いや、以前と変わったことならあった。
「ヴィルヘルミーネ様」
「……」
「っ、すまない。ヴィルヘルミーネ」
ヘルムフリートと婚約していた。彼は、神殿騎士を辞めて、ヴィルヘルミーネと一緒にいることにしたのだ。
それこそ、お互いが一目惚れをしていて、想い合っていたことも知ることになり、それでもヴィルヘルミーネは聖女を辞めることは叶わないと離れようとしたのをヘルムフリートが神殿騎士を辞めて追いかけて来たのだ。
今度こそ、ヴィルヘルミーネと添い遂げたいと思ってのことだ。かつて見かけた少女が、聖女となり、神殿騎士として仕える方だと思っていたが、それ以上に彼女を愛してやまない自分を捨てきれなかったのだ。
今度の人生は、彼女と添い遂げたい。その思いが、何処から来るのかわからなかったが、ヘルムフリートが思いをぶちまけて、ヴィルヘルミーネが折れたのだ。
「慣れませんか?」
「いえ、いや、あぁ、慣れそうにない」
聖女に対しての敬語が抜けきらず、婚約者となったヴィルヘルミーネを様付きでどうしても呼んでしまうのだ。
ヴィルヘルミーネは、そんなヘルムフリートを見て苦笑していた。自分と添い遂げるために神殿騎士を辞めて、追いかけて来てくれたことを嬉しく思う半面、ヘルムフリートの将来を台無しにさせた気がしてならなかった。
それでも、聖女の自分に寄り添い続けてくれることが、嬉しくてたまらなかったのも事実だ。
今度もまた別々の人生を送るのだろうと思っていたのに。
そんなことを思っていることにヴィルヘルミーネは、首を傾げたくなった。
(まただわ。私は、私のはずなのに誰かの想いとまじってしまう)
「どうした?」
「いえ、時々、不思議な感覚になるんです」
「君もか? 私も、最近不思議な感覚になるんだ。聖女は、君しか知らないはずなんだが、よく似た人と添い遂げられなかった気がするんだ」
それを聞いて、ヴィルヘルミーネは目を見開いて驚きつつ、よくわかるとばかりに頷いていた。
「同じみたいですね」
「なら、別の時代で、そんな想いをしたのかも知れないな」
「えぇ、きっと、そうですね」
ヴィルヘルミーネは、ヘルムフリートとそんな話をして笑いあった。
それが、初代聖女と国王の昇華しきれなかった秘めたる想いだということには気づくことはなかった。
ただ、お互いが今世は寄り添いあえることになったことが嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
「君のことを幸せにすると誓う」
「ふふっ、お互い目一杯幸せになりましょう。次の世にまで想いを残すことがないくらい」
「そうだな。だが、次の世も、君といたいから想い残すことが完全になくなることはなさそうだ」
「私は、生まれ変わっても聖女になりたいです」
「なら、私は君の元に馳せ参ずることのできる者に生まれ変わりたいものだ」
そんなことを言い合う二人は、いつ見かけても仲睦まじくしていた。色んな人たちに羨ましがられ、笑顔溢れる人生を謳歌した。
石化病も、ちらほら見受けられたが、完全に石化する者は現れなくなった。
だが、再び人間たちの心が神の御心に叶わなくなったら、繰り返されることになるだろう。
その時は、この二人が生まれ変わって、自分たちも幸せになるために奮闘することだろう。
次の世こそ、多くの人たちが神の愛に気づいて、誰一人として石化して神殿に逃げ惑うことがないことを願うばかりだった。
(一人でも多くの人が神の愛に気づいてくれるように。私は、何度でも聖女として生まれ変わって、伝え続けたい)
そんな思いを後押ししてくれる存在がいてくれることで、二人はお互いが幸せになり、その想いが周りに伝わってたくさんの人たちが幸福の人生を歩み続けることになった。
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