聖女として生まれ変わることを望む私をあなたは、見つけてくれますか?

珠宮さくら

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王都に向かった人々をヴィルヘルミーネたちは探しながら、着々と王都に向かっていた。

どこかに生きている人間はいないかと探していたが、未だに一人も見つけられずにいた。


「ここにも、人の姿はありませんね」


王都まで、もう少しのところまで来ていた。その途中の村々には人の姿がなかった。それこそ、石化した者も一人として見なかったのだ。

村々の人たちが、くまなく探したが見つからないまま、王都に行ったのだろうと家に残る者とヴィルヘルミーネたちとついて来た者もいた。

みんな、何とも言えない顔をしていて、口数も少なくなっていた。

そんな中で、ヴィルヘルミーネは……。


「みんな、王都にいるのでしょう」
「聖女様?」
「ヘルムフリートは、王都の神殿をどう思いますか?」
「……王都の、神殿ですか?」


ヴィルヘルミーネが何を言いたいのかが、ヘルムフリートは最初わからなかった。そのため、不思議そうに首を傾げていた。

ヘルムフリートは、王都の神殿はヴィルヘルミーネに会えると思って足繁く通っていたが、ヴィルヘルミーネを見かけなくなってからは、用もなければあまり近づかなくなっていた。神殿騎士としては、あるまじきかも知れないが、それよりも訓練に勤しんでいる方が有意義だった。

そんなことを思っているとヴィルヘルミーネは、懐かしむように話し始めていた。


「私は、幼い頃まで王都で暮らしていました」


ヘルムフリートは、知っていると言いたかったが頷くだけだった。それこそ、そんなヴィルヘルミーネを見るために通い詰めていたのだから、不純な動機だったとヘルムフリートは思って苦笑したくなっていた。


「王都の神殿は豪華絢爛で、祈りにくいというか。苦手でなりませんでした」
「確かに初代聖女の生誕の地の神殿に比べると私も、あそこは……」
「ずっと、王都の人々の気持ちが、神殿内をそうさせているのだと思っていました。でも、そもそもが違っていた気がしてならないのです。王都の神殿の彫刻壁画を間近で見たことはありますか?」


王都の神殿の外壁と内装は、彫刻壁画になっていた。人々が救いを求めているかのように群がっているような鬼気迫るものだった。その顔が、あまりにもリアルで凝視するのが辛いという者や気持ち悪いという者が多かった。

ヘルムフリートは、それを思い出しながら、眉を顰め始めていた。あれは、長時間どころか短時間でも見ていても込み上げるものがあった。


「まさか、初代聖女の時代の厄災とは……」
「えぇ、石化だったとしたら、助けを求めてどこに向かうと思いますか?」
「神殿ですね」


ヴィルヘルミーネが何を言いたいのかがヘルムフリートにもわかってしまった。

初代聖女の街の人たちですら、石化が始まったのだ。それは完治することができたが、王都に向かった人々にそれができただろうか。

難しいはずだ。ただですら、聖女のもとに行くことより、王都ならばと避難したのだ。聖女を悪く言い続ける者たちの言葉に耳を傾け、あざ笑いながら聖女のもとに行く者たちを愚かだとすら思っていただろう。

そう思う者たちに石化が始まったら、恐怖で暴れ、自分だけは助かりたいと思うだろう。身分や地位ある者は、我先にと神殿に向かうかも知れない。

広めた者のせいだと暴れ回ってスケープゴートにしているかも知れない。


「神殿の石像や彫刻壁画は見事なものばかりでした。神に許しを請うことなく、自分たちの何が間違っていたかを見つめることなく、ただ自分を助けてくれと縋り付くような顔ばかり。穏やかな顔の彫刻壁画は、あそこにはなかったはずです」
「それが、石化した人々だと?」
「……考えすぎかも知れませんが」


ヘルムフリートは、ヴィルヘルミーネを馬に乗せながら、そんなことを話していた。馬に乗っての早駆けに疲れていると思っていた。浮かない顔もそのせいだと思っていたが、違っていたようだ。


「あなたも、奥方様を残して来られたのです。心配でならないでしょうね」
「は? 奥方? 私に妻はおりませんが」
「あ、まだ、結婚式はなさっておられませんでしたか?」
「確かに式は年内の予定でしたが、婚約は破棄となりましたので。家族は、既に他界しているので、身内に心配する者はおりません」
「……婚約破棄なさっているのですか?」
「えぇ、そうですが。何か?」
「確か、王女様と婚約なさっておられたのでは?」
「よくご存じですね。そうでした」
「あの、あなたがアピールをなさって婚約したと聞いたのですが……」
「違います。アピールしてたのは、王女です。私は、それにまんまとハマっただけです」
「……」


ヴィルヘルミーネは、ヘルムフリートが結婚どころか。婚約破棄していたことに衝撃を受けてしまった。

あまりのことにそこから、王都の神殿付近につくまで記憶がなかったほどだった。


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