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しおりを挟む神殿騎士になる前に時間を見つけては、神殿に足繁く通っていた時期がヘルムフリートにはあった。
その日も、時間を作っては神殿に赴いていたのは、とある少女を見たいがためだった。
いつも、その少女は入口付近でひっそりと祈っていた。祈っている彼女を一目見たくて、その日を頑張るようにすらなり始めていた。
祈りの邪魔はできないといつも遠目で、その少女を見ていたが、その日は色々と忙しくて急ぎ足で神殿に向かっていた。
するとその途中で人にヘルムフリートは、ぶつかってしまったのだ。
「すみません」
「……」
「怪我はしていませんか?」
「大丈夫です」
そんな風にぶつかったのは、その日を堺にして、月に何度かあった。その女性とヘルムフリートは婚約することになったのだが、彼女はヘルムフリートがわざと自分にぶつかってきてアピールしていると周りに話していた。
その女性は、王女だった。神殿に足繁く通って祈るような方ではなかったが、その時だけ通い詰めていて、ヘルムフリートにわざとぶつかり続けていたのだ。彼を見初めて一目惚れをした王女は、彼が神殿に通うことを知って、己も通い詰めているのだとアピールして、無理やり婚約するまでしたのだ。
ヘルムフリートは、王女が言うようなことをしてはいなかった。ただ、1秒でも長く、あの少女と同じ空間で祈っていたいと思っていたにすぎなかったが、周りはわざとぶつかって印象づけるようなことまでして、アピールしたのかと思いこんでしまい、あれよあれよというまに婚約することになってしまったのだ。
それを否定すればするほど、照れ隠しだと思われてしまい、げんなりする日々を送ることになった。
それでも、神殿で彼女に会えるのなら、大したことではなかったが、ある日を堺にしてぱたりと会えなくなったことで、ヘルムフリートはどれほどのショックを受けたことか。
それでも、神殿騎士を目指すのをやめなかったのは、いつか再び会えるかもしれないと淡い期待をしていたこともあった。
だが、その少女にお似合いだと思われていたことには全く気づいていなかった。
それどころか。あちらも、ヘルムフリートに今日はお会いできるだろうかと思って待ちわびられていたことも知らなかった。
お互い話しかけていたら、何かしら変わっていたかも知れないが、すれ違ったまま、別の人と婚約をすることになってしまったのだ。
ヘルムフリートは、お似合いだと周りに騒がれていたが、それに浮かれていたのは婚約していた王女の方だけだった。
それでも、婚約したのだからとヘルムフリートは何かと気にかけてはいたが、それが相手の方はヘルムフリートのことを理解してはいなかったのだ。
疲れる夢を見たが、勢いのまま結婚を取りやめて、婚約を破棄にしたことに後悔も未練もヘルムフリートにはなかった。むしろ、さっさと破棄にしておけばよかったとすら思っていた。
王都に帰ったら、王女と勢いのまま、婚約破棄したのだから一悶着あるだろうなと思うと憂鬱な気分にもなってしまった。
「よほど、嫌な夢を見たんですね」
「あぁ、そうだな」
「なら、身体を動かしたら、どうですか? みんな、身体が鈍らないようにと自主練を始めてますよ」
「それはいいな」
ヘルムフリートは、早速、身体を動かそうと着替えて外に向かった。
それこそ、いつか現れる聖女の役に立ちたいがために訓練をしてきたが、今は聖女が自分の目の前にいることが嬉しくて仕方がなかった。
ヘルムフリートが夢見た通りの女性が聖女となっていたのだ。そんな彼女の願いを叶えるために身体が鈍ったままでは困ると思っていて、張り切りすぎたヘルムフリートによって訓練の相手をしていた神殿騎士たちが勘弁してくれと泣きつくのは、いつもより早かった。どうやら、全く鈍ってはいなかったようだ。
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