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しおりを挟む「ヴィルヘルミーネ様……?」
「え?」
悔やんでいたところで、声をかけられたが、幻聴かと思ってしまった。それこそ、いるはずがないと思っていたことが大きかった。
(何で……? これは、夢??)
「おぉ、ヴィルヘルミーネ様だ!」
「皆さん、どうして……?」
ヴィルヘルミーネが目にしたのは、王都に向かったはずの街の人たちだった。
「申し訳ありません。あいつらと王都に向かっていたのですが……」
「あいつら……?」
「あなたに色々言っていた神官とヴィルヘルミーネ様の元婚約者の子息と新しい婚約者の令嬢です。あいつら、ヴィルヘルミーネ様のことを行く先々で、悪く言っていて」
「……」
敬称をつけたくないせいか。ヴィルヘルミーネの元婚約者と言う辺りにトゲが凄く感じられた。
(なんだろう。物凄く簡単に想像できるのだけど……。他に不満を持たずに私のことだけを言っていたのなら、まだ良かったわ)
ヴィルヘルミーネは、思わず苦笑してしまったが、そんなことを思ってしまった。あの神官は、ヴィルヘルミーネが側にいたら真逆なことを言っていたことだろう。
ヴィルヘルミーネの悪口を我慢することができなかったのを喜んでいいのかも知れない。
「あんなのを聞きながら、王都に行くより、ヴィルヘルミーネ様のお側に居ようと思って戻って来たんです」
それこそ、先に行っても、あとから行っても、王都への道のりは楽しいなんてものではなくなるはずだ。彼らが気になって仕方がなくなるだろう。どこで、ヴィルヘルミーネのことを知りもしない人たちに好き勝手広めるのだ。
かと言って止めさせようとしても、身分もある。言える人間が言ったところで、直す気はないだろうことも想像できる。
ヴィルヘルミーネは、そんなことに行き着いて、何とも言えない顔をしてしまった。
(まさか、それでみんなを思いとどまらせて戻らせるなんて……。ある意味、凄い人たちがいたものだわ。逆宣伝効果ってやつよね)
そんな風に役に立つこともあるのかと変な感心をしてしまっていたヴィルヘルミーネ。物凄く疲れていたのだろうが、それを聞いていた聖女と共に来た神殿騎士や神官たちも同じことに行き着いて感心してしまっていて、みんなが物凄く疲れていたことが伺える。それを誰一人として言葉にしなかったことで心配されることはなかったが。
「あなたが、聖女様ですか?」
「そうですが……」
そこには、見たことない人たちも多くいた。この街の人間ではないようだ。
「我々は、この方々の話を聞いて、こちらに来たんです。あいつらと王都に行くのは、どうにも……」
「胸糞悪い」
「おい」
「あら、ごめんなさい。今、思い出しても、ムカついてしまって」
「……」
(散々なまでに悪く言ってくれたみたいね。まさか、それに感謝する日が来るとは思わなかったわ。心の中だけで、感謝しておきましょう。面と向かってお礼も変よね。たくさん悪口を言われていたようだし……)
どうやら、聖女について罵詈雑言を吐きまくって王都に向かった連中のおかげで、王都へ避難せずに聖女であるヴィルヘルミーネのもとに逆に集って来た人たちのようだ。
「王都からも、来ているようです」
「聖女様! ご無事ですか?!」
「ヴィルヘルミーネ様、神官長です」
「え?」
ヘルムフリートが、告げたことにヴィルヘルミーネは驚いてしまった。
(神官長様が、こんなところで野宿していたの?!)
だが、神官長はそんな驚きをもたらしていることなど気づきもせずに聖女の無事を知って喜び、他の顔見知りを見て笑顔になっていた。
「おぉ、ヘルムフリート。他の神殿騎士も、よくぞ聖女様をお守りした!」
神官長と神官、王都に残っていた神殿騎士も、そこにいたようだ。
みんな、聖女が無事であることを喜んで、顔なじみが元気なことに安堵していた。
(なんか、凄いことになっているわね。頭が追いつかなくなってきてるわ)
どうやら、聖女を王命で呼び寄せようとしたことを聞いて、とんでもないと神官長は陛下に物申して口論となったようだ。
それが、気に入らなかった陛下と他の貴族たちと言い争うことになり、何を言っても通じなかったことに憤慨した神官長は……。
「聖女様のもとに向かう。王命に従う必要などないというのに。勝手に神殿騎士を私に確認もとらずに差し向けるなど許せん」
そう言いつつ、聖女を心配して、馳せ参じるようにヘルムフリートたちに伝えたのも、彼だった。聖女が役目をまっとうできるようにすることこそ、神殿騎士の務めだと思っているからこそ、行かせたのだ。
陛下に聖女への侮辱だと言っても伝わることがなかったことで、我慢ならなくなり、自分も聖女のもとに行くことにして、他の神殿騎士や神官たちを伴って向かったのだ。
だが、途中で聖女を悪く言う面々にあい、やはりと数名の神官や神殿騎士が、着いて行けないと王都に引き返したのだ。家族が心配だとか色々な理由をつけてはいたが、聖女を信じていないのは明らかだった。そんな連中を誰も引き止めることはしなかった。
神官長や神殿騎士が、それでも聖女のもとに集おうとしているのを見て、聖女を崇拝する者は自分たちも行くと着いて来て大所帯になったが、それもみんなではなかった。
ある者は家族と、ある者は婚約者と友人知人と喧嘩しあいながら、各々が信じる方に進んで来たようだ。
それでも、何とかたどり着いたが、医者たちが戻って来るより、先にこの街に着いたが、聖女が籠もっている神殿にそのことを知らせて、祈りの邪魔はできないと怪我人や病人の世話を野宿しながらしたりしていたようだ。
それこそ、神殿から離れたところに居たため、戻って来た医者たちに気づくのが遅れたようだ。
ヴィルヘルミーネは、それに心底、驚きながら、同時にホッとした。
「そなたも大変だったな。本来ならもうすぐ……」
結婚するはずだったのに揉めて破棄になったことを神官長が言葉にしようとした時だった。
「ヴィルヘルミーネ!」
「ローザリンデ」
ヴィルヘルミーネが、きょろきょろしているとローザリンデが、ヴィルヘルミーネを見つけて走って来た。普段なら、彼女はそんなことしたりしない。初めて、ヴィルヘルミーネも走る彼女を見た。
「よかった」
ヴィルヘルミーネは、みんなが無事なことを知って心から喜び、ローザリンデを見つけてホッとして気が緩んでしまったようだ。
神官長が、何か言おうとしていたのも耳に入らず安心したことで、ヴィルヘルミーネの緊張の糸が切れてしまったようだ。
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