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しおりを挟む「石化病……?」
ヴィルヘルミーネは、聞き慣れない言葉に首を傾げていた。話を聞きながら、同じ姿勢で1ヶ月祈り続けて身体中が、固まっているのをヴィルヘルミーネの母が心配して揉みほぐしていた。
医者の中にいた女性も、同じように優しくマッサージをしていたが、時折痛むのか眉を顰めるヴィルヘルミーネを見て、謝りながら更に優しくマッサージしていた。
ヴィルヘルミーネは、マッサージされながら、説明を聞いていた。できればマッサージをやめてほしいところだが、良かれと思ってしてくれるのだ。痛む身体を我慢しようとしても、痛いものは痛い。それが顔に出るたび謝られていて、それにも申し訳なくなっていた。
「はい。身体が、徐々に石のように石化していくんです。ですが、全身に広がる者は、稀です。みんな、発病してから、数週間ほどで身体中に広がることなく、そのままか、完全に治ります。派遣された医者でも、発病した者がおりましたが、跡も残らず治りました」
「薬で、治るのですか?」
「それが、祈りが有効なようです」
「祈り……?」
ヴィルヘルミーネは詳しい話を聞き、残った者たちに症状がないかと確認したが、誰も出てはいなかった。
とっくに最初の症状の発熱が出ているはずが、みんな、食事を制限していたというのに元気だったのだ。それこそ、みんな、神殿で聖女の無事を祈り、一刻も早く伝染病が終息することを願っていたからかも知れない。
ヴィルヘルミーネは、元婚約者の嘘を見抜けなかったことを悔やんでいた。
(彼に一度ならず、二度も嘘をつかれていて気づかなかったなんて……。街の人たちの方が見る目があったということね。私が、もっと詳しく聞いていればよかった)
「街の人たちを避難させてしまいました」
「発病しても落ち着く者が殆です。この街の者なら、かかったとしても、石化が進むことはまずないかと思われますが、逃げ出した男は……」
「……」
信仰など、何の役にも立たないと思っているだろう。それに王都の方も……。そんな病の保菌者が、石化し始めたのを見たら、恐怖で逃げ惑い、救いを求めて王都の神殿に群がるだろう。でも、それで助かるとは思えない。石化する者で溢れ返る。
ヴィルヘルミーネは、王都にすぐさま向かいたかったが、季節風が吹き荒れていて、王都に行けるようになるまで、だいぶかかりそうだった。
(なんてことなの。私が、王都に避難させたばかりに街の人たちが、石化の危険に見舞われることになるなんて……)
ローザリンデが、聖女の側が一番安全だと言っていた通りになったのだ。悔やんでも悔やみきれない気持ちにヴィルヘルミーネは、苛まれていた。とっくに限界を迎えている身体で、街の外れまで行こうとするのをヘルムフリートが抱きかかえながら移動してくれることになった。
ヴィルヘルミーネをみんなが、どうにかして休ませたいと思っていたが、それすらままならないことに悩んでいることにも、ヴィルヘルミーネは気づく余裕はなかった。
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