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しおりを挟むダンダンダン!
「な、なんだ?!」
「誰か来たのか?」
「様子を見て来る。……ここを頼む」
ヘルムフリートは、ざわつく面々を落ち着かせながら、場を他の者に任せて、すぐさま扉に向かった。足早に向かいながら軽い目眩に襲われたが、それを気取られることはなかった。
「ヘルムフリート様」
「誰だ?」
神官が、ヘルムフリートの問にすぐに答えた。
「伝染病の治療に向かった医者のようです」
「何?」
ヘルムフリートは、それを聞いて驚いていた。
「神殿に聖女様がおられるのか?! 伝染病は、石化病だ。信仰ある者には大したことなく治るとお伝えしてくれ!」
扉の向こうから、叫ぶようにそんなことを伝えて来た。
「っ、それは本当か?!」
「神官か? そうだ。この街の者なら、かかったところで大したことがないはずだ。もう、籠もって祈ることはない。聖女様に早くお伝えしてくれ!」
戻って来て、神殿が封じられているのを見て、聖女が籠もっているとわかって、もう終わったと伝えるべく扉を叩いていたようだ。
「私は神殿騎士だ。聖女様に許可をいただかねば、出入り口は開放できない」
「わかっている。早くお伝えしてくれ。私は、ゲオルクだ。ゲオルク・シェーファー」
「確かに派遣された医者です。ここにも、よく通われて、ボランティアにも参加されていました」
神官が、他の派遣された医者の名前を聞いて、間違いないと言って、ヘルムフリートに伝えた。
それを聞いて、ヘルムフリートは急ぎ、聖女のもとに駆けた。それこそ、水だけで一ヶ月祈り続けているのだ。身体にどれだけの負担がかかっていることか。聖女に少しでも早く休んでもらおうとヘルムフリートは、足を早めた。
ついさっき目眩がしていたことなど忘れ、ヘルムフリートはしっかりした足取りで駆け出していた。
扉を叩いていたゲオルクは、思い出したようにある名前を口にした。
「あと、逃げ出した医者の卵がいたが、あいつはどっかで石化してるだろうな。信仰心なんて、欠片もない奴だ」
「逃げ出した……? それは、ランドルフのことか?」
「あぁ。そいつだ」
「あいつなら派遣されるところまで行かずにその前に怪我をして、戻って来たと言っていたが?」
「は? 怪我だと? 派遣先について、患者を前にして震え上がって何もできなかった奴だ。それが、ここに戻って来たのか?! 症状の一つ、熱が出た者は? あれの潜伏期間は、半月以上あるんだ。身体に異変はないか? 肌に変色があるものは?」
「変色……?」
「あぁ、肌が徐々に石化し始める。完全に石化した者は、今のところいないが……」
ゲオルクは、戻っていた事に驚きつつ、そんなことを言った。
「いや、今のところは、誰もいない。まずいぞ。彼は、王都に避難したはずだ」
「王都だと?! 発病したら、感染爆発を起こす火種になるぞ! いつだ?! いつ王都に向かったんだ?」
「もう時期、一ヶ月になる」
そんな話がなされていたところで、ヴィルヘルミーネは祈りの間から出て、ヘルムフリートに抱きかかえられながら出入り口の扉へと向かっていた。
それこそ、初恋の人に抱きかかえられることになったが、躊躇っている余裕も、赤面することもなかったのは、戻った医者に一刻も早く話を聞きたいという気持ちだけだったからだ。
神官が、とんでもないことになったと話すのにヴィルヘルミーネは、怪訝な顔をした。
「どうしたのですか? 伝染病は信仰ある者には大したことはないと聞いたのですが」
「それが……」
神官が、その話をするとヴィルヘルミーネは目を見開いて驚き、ヘルムフリートに下ろしてもらい、立っているのもやっとな状態で扉を開けようとした。
「ヴィルヘルミーネ様、扉なら我々が開けます」
だが、そんな言葉もヴィルヘルミーネには届いていなかった。そんなヴィルヘルミーネにヘルムフリートは胸が傷んでならなかった。もう、限界などとっくに超えているのだ。
「詳しく説明してください」
扉を開けるなり、ヴィルヘルミーネは扉を叩いていたゲオルクに説明を頼んだ。ゲオルクは、聖女がヴィルヘルミーネなことに驚いていた。それこそ、彼女のような者が聖女になると思っていたヴィルヘルミーネが聖女となっていたのだ。驚かないわけがない。
更にゲオルクは、ヴィルヘルミーネの満身創痍な姿にギョッとして治療をしようとしたが、ヴィルヘルミーネはそれよりも説明をとせがんだことで、根負けしたゲオルクは話し始めた。
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