聖女として生まれ変わることを望む私をあなたは、見つけてくれますか?

珠宮さくら

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ヴィルヘルミーネが祈り続けて、一ヶ月が過ぎようとしていた。

それを心配する者は日に日に多くなっていて、見かねた神官がヘルムフリートにこんなことを言い始めた。


「ヘルムフリート様、聖女様はそろそろ限界なはずです。聖なる祈りの間に入る前から、ずっと無理をなさっておられたのです」
「それはできない」
「ですが、お命が……」
「聖女の祈りを邪魔することは、許されない。何より彼女は、誓いを立てておられる。それを邪魔することなどできない」
「……そうでしたね。申し訳ありません」


ヘルムフリートはそう口にしながら、悲痛な顔をしているのを見て、神官はそのことをその後で、止めようとすることはしなかった。

だが、心配なことは他にもあった。食べ物が底をつきかけていた。街を出る面々が、置いて行ったものが主だったが、それもどれだけ切り詰めても限界が見え始めていた。

ヴィルヘルミーネが水を飲んで祈り続けるため、みんな最低限の物を口にしていたが、それでも長くは保たない状況だ。何より病人に節制なんてさせられなかったが、それでも残った者たちは己にできるとこをして、聖女の無事を願っていた。

食料を調達すべく、外に出ることも考えたが、聖女のお籠り中は、神殿は出入り口を封じるのが習わしだ。

それを破れば、祈りは成就しないと言われているが、聖女であるヴィルヘルミーネは気にすることはないとは言ってくれていたが、習わしを知る者たちの誰もが、開けることをしたくなかったのだ。


「ヴィルヘルミーネ様は、初代様の聖女様に似ておられらのだろう」
「そういえば、聞いたことがあるな。初代様は、祈り続けることが苦ではなかった方だったとか」
「そうそう。祈り続けることは息をするのと同じだとおっしゃられた方だ。それは、ヴィルヘルミーネ様も一緒だった。初代様を模範にされているのかと思ったが、あの方はご存じなかった」


今日は、病人の世話をヘルムフリートがする日で、そんな話をしていた。病人は、同じことを思っているのかとわかったヴィルヘルミーネが、嬉しそうに笑った顔を忘れられないとヘルムフリートに話していた。

そんな方こそ、聖女になるに相応しいのだろうと呟くのにヘルムフリートも納得していた。


「息をするのと同じか」
「誰が教えるでもなく呼吸しているのと同じで、誰に教わることもなく祈る。それをしているうちに聖女に選ばれて、ヴィルヘルミーネ様は驚いていたようだ。それこそ、己の成すべきことを教えてほしいと神に祈り願われたら、聖女となれと告げられたそうだ。息をするように祈っていて、聖女になったと初代聖女のことを聞いて、大したことではないと思った輩も多かったようだが、ヴィルヘルミーネ様はそんなことを思われる方ではなかった。同じだとわかって嬉しそうにされていたのをよく覚えている」


それを聞いてヘルムフリートは、ヴィルヘルミーネは聖女となるべくしてなられた方だと思えて微笑ましかった。

だが、同時に王都でも新しい聖女の知らせを馬鹿にしている声をあちらこちらから聞いていたから、複雑な思いもあった。どこにでも、信仰心の欠片も持ち合わせていない者はいるだろうが、今の話を聞いても感動したりしないだろう。それどころか、大したことないと思うのではなかろうか。実に嘆かわしいことだ。

それこそ、神官長が国王陛下に物申しても相手にされずに怒り狂っている姿がヘルムフリートには容易に想像できた。


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