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しおりを挟むヴィルヘルミーネは禊をして、身なりを整えてから、手紙をしたためていた。
(王命がくだったということは、今の王は聖女のことを理解してはいないってことよね? そんな方に手紙を書いても、伝わらないかも知れない。でも、神殿騎士の方々が罰せられることになることは、許せない)
そう思いながら、王都では聖女のことを心から信じている者は、極稀なようだと思いたくないが、昔の王都と変わってはいないようだとため息をつきたくなった。
そんな中で、初めてお会いした時のヘルムフリートは、神殿騎士を目指していて一際目立っていた。
(彼と一緒に来た騎士たちも目が違っていた。きっと、以前よりも王都は変わっているのだと信じたい)
ヴィルヘルミーネは、避難が正しかったと思いたくて、ざわつく気持ちに蓋をした。民の安全を守っただけだ。王都なら、安全だ。そう思うことにした。
(季節風が吹き出せば、王都までは誰も通れなくなる。この先の人たちは、安全になるのは間違いない)
そう思い直して、部屋を出てヘルムフリートたちが待っているところまで、向かった。
「これより、祈りに入ります。私に何かあっても、私の意志だとしたためてあります。これを持って、王都に帰っても、処罰されることはないでしょう」
「恐れながら、ヴィルヘルミーネ様。我々は……」
「私のために死ぬことは許しません」
「っ、」
「何が何でも生きてください。私は、聖女となった時に誓いを立てました。私が、神様と誓ったことを破ることは誰にも邪魔させません。私が、命を賭したとしても、あなた方は死なないでください」
ヴィルヘルミーネの言葉にヘルムフリートは、何とも言えない表情をしていた。
「……供は必要ないと?」
「愛する人や家族の元に無事に帰ってください。……それと母のことをお願いします」
その言葉にヘルムフリートだけでなく、他の神殿騎士たちも、頷くことしかできない者ばかりだった。
「わかりました。御母上のことはお任せください」
ヴィルヘルミーネは、更にこう言いたかったが、それは飲み込んだ。
(ヘルムフリート様を奥方様のもとに返さなくては。他の方々も、そうよ。みんな素敵な方々だもの。愛する人の元に帰ってもらわなくては)
ヴィルヘルミーネは、初恋の人の幸せを願っていた。みんなの幸せを願っている。そのために病を断ち切らねばならないと思っていた。
伝染病が、どこから来て、なぜ、今年はこんなにも広まったまま終息しないのかもわからない。きっと理由があるのだろうが、ヴィルヘルミーネは自分は医者ではないからとそこを追求することをしていなかった。
ただ、ヘルムフリートが婚約者と無事に結婚して、幸せに暮らしているものと信じて疑っていなかった。そんな彼を愛する人の元に無事に帰ってほしいと願うばかりだったが、ヴィルヘルミーネのように婚約が破棄になっているとは思ってもいなかった。
それこそ、聖女であるヴィルヘルミーネを王命で迎えに行くことになり、そんな命令などありえないと憤慨しながらも、馳せ参じる口実に利用したのだが、そのことで婚約者の女性と揉めに揉め、喧嘩となって、結婚寸前のところで婚約が破棄となったなんてことを知らなかったのだ。
それを知ることになるのは、だいぶ後のことだった。
そんな風に理解されず、それに激怒して聖女の側に来たのは、ヘルムフリートだけではなかった。王都が苦手だとヴィルヘルミーネが言うように聖女をぞんざいにしていて、本当に信じている者は王都では変わり者のようになってしまっていたからに他ならない。
今回の王命も、王が聖女を気にかけているというアピールに他ならなかった。パフォーマンスにしかすぎなかったのを神殿騎士たちは知っていた。
ヴィルヘルミーネには伝えていないが、みんな志願して迎えに来たのだ。聖女の元に馳せ参じたかったのは、ヘルムフリートたちの本音だった。
王命に従う理由などないことも知っていたが、聖女の安全を命にかえても守るのが、神殿騎士の務めだと思っていたが、ヴィルヘルミーネはそんな神殿騎士たちに生きて愛する人の元に帰れと言ったことに心打たれていた。
「聖女様を守るために来たというのに。我々のことすら、守ろうとなさる方のようだ」
「最近の聖女様は、みんな短命でいらっしゃいますが、あの方が一番短くならなければよいのですが……」
「滅多なことを言うな」
「っ、すみません」
ヘルムフリートは叱りながら、内心ではそれを一番心配していた。
何より、あれだけ慕われている聖女を死なせたくないと思っていた。聖女となった彼女しか入ることの許されない場所に入った今、それを邪魔することは許されない。
こうなれば、伝染病が早く終息することを祈るばかりだった。
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