聖女として生まれ変わることを望む私をあなたは、見つけてくれますか?

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
20 / 39

19

しおりを挟む

色んなことを思いながら、神殿へと神官やヘルムフリートたち神殿騎士と共に戻った。その途中で、昔との違いを見比べていた。


(あの頃と背丈が変わったのね。……そりゃ、そうよね。何年も経っているのだもの)


「どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません」


ふと気を抜くとヘルムフリートを見つめてしまっているヴィルヘルミーネ。それをヘルムフリートは、不思議そうにしていた。


(素敵な方に成長したものだわ。彼の伴侶が、羨ましい)


婚約した女性と結婚をしたものとヴィルヘルミーネは思って、そんなことを思っていた。

だが、そんなヴィルヘルミーネを神殿の前で呼び止めた者がいた。その声にヴィルヘルミーネは、まさかと思ってしまった。 


「聖女様」
「母様。父様たちと王都に行かれたのでは?」


聖女となってから、そう呼ぶようになった母にヴィルヘルミーネは駆け寄っていた。

それこそ、とっくに街を出て行ったとばかり思っていたのに母が神殿にいたことにどれほど驚いたことか。


(何で? 母様が、ここにいるの? 病弱な方だけだ、伝染病にかかるよりは王都に行った方が安全だと思っていたのに)


そんな娘の心の声が聞こえたかのように母親は、柔らかに微笑んだ。


「お祈りに専念なさってください。病人たちは、私が看ます」
「母様」
「どこに居ても、私たちには神が一緒に居てくださる。あなたが、強く願って役目を与えられたように。一人一人が願えば、その願いによっては叶えてくださる」
「願いによっては?」
「神の御心に叶わないことは決して叶わない。それこそ、何でも叶ってしまったら、この世界がとんでもないことになるわ」
「……そうですね」


ヴィルヘルミーネは、泣きそうになってしまった。家族には、一番安全なところに避難してほしかったのだが、母は娘を思って残ることにしたようだが、母は長旅は難しいから夫や息子の迷惑になりかねない。だから、残ることにしたとヴィルヘルミーネに言ったのだ。

確かに病弱な母に長旅はきつい。何より王都の暮らしが、身体に負担になるからとここに引っ越したのだ。今更、王都に行っても病弱な母にあそこでの暮らしは辛いだけかも知れないが、それでもとヴィルヘルミーネは思わずにはいられなかったが、母の言葉を聞いて、どこに居ようと神の御心に叶えば叶うものと聞いて、そうだと思っていた。。

そんなことを思っていると神官たちが、ヴィルヘルミーネに言った。


「私たちも、看ます。騎士の方々は、聖女様を頼みます」


神官たちも、ヴィルヘルミーネの母と同じく世話をすると申し出てくれた。

だが、それに異を唱えたのは、ヘルムフリートだった。


「いや、それは、神官と神殿騎士の半々を交代制にした方がいい」
「半々を、ですか?」
「我々も聖女様の護衛をしながら祈るが、神官の皆様には、祈ることは敵うことはないはずだ」
「ご謙遜を。王都の神殿騎士の皆様は、武に長けておられて、敬虔な方々ばかりと聞いております。いざとなれば、動けるのは騎士の皆様なはず。お側に神官は無用かと」
「半々にしておけば、気も引き締まる。ずっと、祈り続けるのは、神官の方が向いているはずだが、重病人を張りつめて診ているのも、気が休まらないだろ?」
「……そうですね。半々にしましょう。それこそ、聖女様のお祈りの集中力には、誰も敵いませんよ。あの方は、平気で一ヶ月。水だけで祈りを続けられますから」
「それは、凄いとしか言えないな」


ヘルムフリートだけでなくて、それを聞いていた神殿騎士たちも目を見張った。

だが、母のことで感情が爆発しかけているヴィルヘルミーネには、そんな会話が耳に届くことはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

処理中です...