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しおりを挟む色んなことを思いながら、神殿へと神官やヘルムフリートたち神殿騎士と共に戻った。その途中で、昔との違いを見比べていた。
(あの頃と背丈が変わったのね。……そりゃ、そうよね。何年も経っているのだもの)
「どうかされましたか?」
「いえ、何でもありません」
ふと気を抜くとヘルムフリートを見つめてしまっているヴィルヘルミーネ。それをヘルムフリートは、不思議そうにしていた。
(素敵な方に成長したものだわ。彼の伴侶が、羨ましい)
婚約した女性と結婚をしたものとヴィルヘルミーネは思って、そんなことを思っていた。
だが、そんなヴィルヘルミーネを神殿の前で呼び止めた者がいた。その声にヴィルヘルミーネは、まさかと思ってしまった。
「聖女様」
「母様。父様たちと王都に行かれたのでは?」
聖女となってから、そう呼ぶようになった母にヴィルヘルミーネは駆け寄っていた。
それこそ、とっくに街を出て行ったとばかり思っていたのに母が神殿にいたことにどれほど驚いたことか。
(何で? 母様が、ここにいるの? 病弱な方だけだ、伝染病にかかるよりは王都に行った方が安全だと思っていたのに)
そんな娘の心の声が聞こえたかのように母親は、柔らかに微笑んだ。
「お祈りに専念なさってください。病人たちは、私が看ます」
「母様」
「どこに居ても、私たちには神が一緒に居てくださる。あなたが、強く願って役目を与えられたように。一人一人が願えば、その願いによっては叶えてくださる」
「願いによっては?」
「神の御心に叶わないことは決して叶わない。それこそ、何でも叶ってしまったら、この世界がとんでもないことになるわ」
「……そうですね」
ヴィルヘルミーネは、泣きそうになってしまった。家族には、一番安全なところに避難してほしかったのだが、母は娘を思って残ることにしたようだが、母は長旅は難しいから夫や息子の迷惑になりかねない。だから、残ることにしたとヴィルヘルミーネに言ったのだ。
確かに病弱な母に長旅はきつい。何より王都の暮らしが、身体に負担になるからとここに引っ越したのだ。今更、王都に行っても病弱な母にあそこでの暮らしは辛いだけかも知れないが、それでもとヴィルヘルミーネは思わずにはいられなかったが、母の言葉を聞いて、どこに居ようと神の御心に叶えば叶うものと聞いて、そうだと思っていた。。
そんなことを思っていると神官たちが、ヴィルヘルミーネに言った。
「私たちも、看ます。騎士の方々は、聖女様を頼みます」
神官たちも、ヴィルヘルミーネの母と同じく世話をすると申し出てくれた。
だが、それに異を唱えたのは、ヘルムフリートだった。
「いや、それは、神官と神殿騎士の半々を交代制にした方がいい」
「半々を、ですか?」
「我々も聖女様の護衛をしながら祈るが、神官の皆様には、祈ることは敵うことはないはずだ」
「ご謙遜を。王都の神殿騎士の皆様は、武に長けておられて、敬虔な方々ばかりと聞いております。いざとなれば、動けるのは騎士の皆様なはず。お側に神官は無用かと」
「半々にしておけば、気も引き締まる。ずっと、祈り続けるのは、神官の方が向いているはずだが、重病人を張りつめて診ているのも、気が休まらないだろ?」
「……そうですね。半々にしましょう。それこそ、聖女様のお祈りの集中力には、誰も敵いませんよ。あの方は、平気で一ヶ月。水だけで祈りを続けられますから」
「それは、凄いとしか言えないな」
ヘルムフリートだけでなくて、それを聞いていた神殿騎士たちも目を見張った。
だが、母のことで感情が爆発しかけているヴィルヘルミーネには、そんな会話が耳に届くことはなかった。
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